日本公衆衛生雑誌
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原著
痴呆患者の7年間の生命予後に影響する要因分析
元永 拓郎朝田 隆
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2002 年 49 巻 7 号 p. 620-630

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抄録

目的 アルツハイマー型痴呆(AD)と脳血管性痴呆(VD)の在宅患者を対象に 7 年間の生命予後に影響する要因分析を行った。在宅痴呆患者の生命予後に関する研究は,その重要性にも関わらず多くない。特に日本人を対象にした研究はほとんどなかった。また,在宅患者に介護状況が重要であることは言うまでもないが,介護要因が生命予後に影響するかどうかが検討されたことはなかった。そこで本研究では,本人や介護者の要因が生命予後にどのような影響があるか検討した。
方法 1992年に山梨県下の複数機関において,AD または VD と診断された145人(男性56人,年齢77±7.9;女性89人,年齢80±8.5)を対象とした。7 年間フォローアップし,性別や年齢など本人に関する変数と家族数,社会資源の利用などの介護に関する変数を独立変数とし,生命予後を従属変数として Cox 回帰分析を行った。
結果 全対象者と AD 患者群とも,高年齢,男性,心身機能,骨折・転倒が生命予後を不良と予測する要因であった。痴呆を疾患別にみると VD の方が AD と比べて生命予後が不良であった。年齢と性別をコントロールすると,骨折・転倒のオッズ比は1.7 (95%信頼区間1.1-2.6)であり有意に生命予後を不良にした。なお,これらの変数に介護者の変数を加え解析したが,介護者変数の生命予後への影響はみられなかった。また,アポ E 遺伝子データが得られた AD 患者64人では,改めて骨折・転倒の影響が指摘された。さらにアポ E が 4 型を持つと予後が良好となる傾向がみられた。
結論 骨折・転倒は生命予後を不良にする。この知見は今後の痴呆患者ケア上でも重視されるべきである。

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© 2002 日本公衆衛生学会
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