目的 茨城県における国民健康保険 5 月診療分のレセプトに現れたアレルギー性鼻炎受療率は,年ごとのスギ花粉飛散量と相関したと報告されている。本研究の目的は,この受療率にスギ花粉症がどのくらい含まれているかを明らかにし,また,アレルギー性鼻炎の発症や受療率に及ぼす大気汚染や医療資源等の影響を明らかにすることである。
方法 4 つの耳鼻咽喉科施設のカルテから,花粉飛散期におけるアレルギー性鼻炎に占めるスギ花粉症患者数を調べた。茨城県の1988年~96年の 5 月診療分国民健康保険傷病データを用いて,アレルギー性鼻炎の年齢調整受療率の経年比較を行った。1994-96年の 3 年間,茨城県内 7 地点でスギ花粉飛散量を調べ,スギ林の占有率と比較した。アレルギー性鼻炎受療率との関係を調べるために,大気汚染の代替指標として茨城県内市町村単位の自動車交通量を,医療資源として耳鼻咽喉科医療機関と耳鼻咽喉科医師の地域分布を取り上げた。
結果 5 月診療分のアレルギー性鼻炎患者の60%~80%がスギ花粉症と推定された。茨城県内 7 地点のスギ花粉飛散量は,毎年同じ傾向で増減したが,スギ林占有率とは年によって対応したりしなかったりした。市町村別のアレルギー性鼻炎受療率は農家人口率ともスギ林占有率とも負に相関した(それぞれ r=−0.383, r=−0.402)。茨城県の市町村単位で算出した自動車交通量は,年平均 NO2 濃度とも(r=0.634, P<0.01),アレルギー性鼻炎受療率とも有意に相関した。県北山間地域では,アレルギー性鼻炎受療率が低く,耳鼻咽喉科の医療施設も少なかった。
結論 国保 5 月診療分のアレルギー性鼻炎受療率にはスギ花粉症が60%以上占めており,このことが受療率の経年変動がスギ花粉飛散量と相関する原因であると確認された。
アレルギー性鼻炎受療率を高める地域的要因として,大気汚染や都市化,さらに医療資源の増加が示された。