日本公衆衛生雑誌
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公衆衛生活動報告
コホート分析による結核患者管理の評価検討会
撫井 賀代山田 尚下内 昭中澤 秀夫
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2002 年 49 巻 8 号 p. 759-765

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抄録

目的 ピラジナミドを加えた 4 剤による 6 か月治療が標準的な化学療法の一つに加えられ,これからの患者管理は治療期間中の脱落中断を防止し,治療終了に導くための服薬支援を中心としたものが必要となっている。この患者管理を定期的に評価し,結核対策を見直していくことを目的に「コホート分析による評価検討会(コホート検討会)」が実施されたので,その実施状況と成果を報告し,本検討会の意義について考察する。
方法 大阪市浪速保健所において,平成10年より「コホート検討会」を四半期ごと(3 か月に 1 回)に開催し,喀痰塗抹陽性新登録肺結核患者を対象に,治療成績・治療状況(治療経過・菌検査結果の把握状況)・初回面接の実施状況について,継続的に検討を行った。検討会のメンバーは結核対策を担当する保健所の職員だけでなく,外部助言者の参加を得て実施した。
成績 1. 菌検査結果の把握状況は,平成 9 年から11年までの 3 年間で培養検査は69%から97%へ,感受性検査は36%から90%へと改善を認めた。
 2. 初回本人面接を未実施のものが同じく 3 年間で36%から17%へと減少し,治療期間中の本人連絡の回数が増加した。
 3. 治療成績では,脱落中断率が18%から 7%へと著明に低下し,治療成功率も69%から76%へとやや改善を認めた。また,脱落中断者の状況は当初,本人面接未実施のため,転居などの情報を把握できずに中断に至ったケースや中断を早期に把握できなかったケースなどが認められたが,平成11年には,本国への帰国により治療状況が不明になったケースと治療中断を繰り返す処遇困難事例のみとなった。
結論 コホート検討会の開催により,菌検査結果の把握・初回本人面接の実施状況が改善され,脱落中断率が低下した。コホート検討会を行うことのメリットとして,①個々のケースの見直しが保健師個人ではなく,保健所として実施できるようになった。②個人の評価のみでなく,集団としての評価が可能となり,結核対策の見直しに繋がった。③定期的かつ継続的に評価が実施できるようになった。さらに,本来の患者管理の評価という目的以外に,④職員の勉強の場ともなり,それぞれが何をすべきなのかということが認識され,適切な役割分担と協力体制がつくられるようになった。ことがあげられる。また,客観的な評価と緊張した検討会の実施には,外部者が参加して実施することが不可欠だと考えられた。

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© 2002 日本公衆衛生学会
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