日本公衆衛生雑誌
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原著
中国都市部における一人っ子の精神健康度とその心理社会的要因 高校生を対象として
劉 沉穎宗像 恒次藤山 博英薄葉 眞理子
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2003 年 50 巻 1 号 p. 15-26

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抄録
目的 中国の青少年に精神的健康の問題が多く顕在化する心理社会的要因として,一人っ子政策や核家族化に伴う情緒的支援ネットワーク認知の低下が懸念される。本研究の目的は,中国都市部における高校生,特に一人っ子の精神的健康度を把握し,それらに関連する心理社会的要因について検討した。
方法 調査対象者は,中国黒龍江省ハルビン市内の高校 1 年生から 3 年生までの310人で,無記名自記式質問紙を用いた調査を行った。調査期間は2000年 2 月に行われた。調査内容は,属性,神経症症状と抑うつ症状としての精神的健康度,心理社会的要因としての自己価値感,特性不安,対人依存型行動特性,ストレス源,情緒的支援ネットワークをとりあげて,1)精神的健康度と心理社会的要因について,一人っ子群と非一人っ子群を比較し,2)兄弟姉妹,年齢,性別等属性の違いによる精神的健康度と心理社会的要因との関連性について検討し,3)精神的健康度に及ぼす心理社会的要因間の因果関係の推定について共分散構造分析による検討を行った。
結果 一人っ子群は非一人っ子群に比べ神経症傾向と抑うつ傾向の出現率が多く(GHQ:一人っ子群が73%,非一人っ子群が39%,SDS:一人っ子群が63%,非一人っ子群が25%),また特性不安,対人依存型行動特性,ストレス源の認知は有意に高く,そして自己価値感や家族からの情緒的支援ネットワークの認知は有意に低かった。また属性の内,兄弟姉妹の有無が精神的健康度とその心理社会的要因に関連していることが認められた。情緒的支援ネットワークの認知の低下は,自己価値感の低下,特性不安の増大,対人依存型行動特性の増大といった不安傾向特性を促し,その結果,ストレス源がより多く認知され,精神的健康度に悪影響を及ぼす適合度の良好な因果モデルが得られた。
結論 本研究における中国都市部の高校生の一人っ子群は非一人っ子群よりも神経症傾向および抑うつ傾向の出現率が高くなることが示唆され,特に,兄弟姉妹の存在が精神的健康に良好な影響をもたらすことが明らかになった。また,情緒的支援ネットワークの認知は,精神的健康度および心理社会的要因との関係において重要な役割を果たしていることが明らかになった。とりわけ家族からの情緒的支援ネットワークの認知は,不安傾向特性を低下させ,ストレスを軽減し,精神的健康度を良好に保つ機能を持つことが示された。
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© 2003 日本公衆衛生学会
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