日本公衆衛生雑誌
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原著
横浜市における救急医療の需要分析
大重 賢治井伊 雅子縄田 和満水嶋 春朔杤久保 修
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2003 年 50 巻 9 号 p. 879-889

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抄録

目的 横浜市では,近年,救急車による搬送患者数が急激に増加している。本研究では,救急医療需要に影響を与えている地域的要因について分析し,将来の救急搬送患者数を予測する。
方法 1995年から1999年の 5 年間について,横浜市各行政区(18行政区)における,人口1,000人あたりの年間救急搬送患者数(昼夜人口調整済)を目的変数とし,救急医療の需要に影響を与えると考えられる因子を各行政区ごとに集計したものを説明変数として用いて,重回帰分析を行った(パネル分析)。また,この分析によって得られたモデルに基づいて,救急搬送患者数の将来予測を行った。救急搬送に関する情報は,横浜市消防局発行の消防年報より得た。人口に関するデータは,横浜市企画局政策統計解析課の行政区別年齢別人口統計および1995年と2000年の国勢調査より入手した。その他,救急医療の需要に影響を与えると考えられる因子は,横浜市衛生年報,神奈川県衛生年報および横浜市統計書より得た。横浜市の将来人口推計は,1995年と2000年の国勢調査をもとに,コホート変化率法を用いて行った。
結果 1) 各行政区における救急搬送患者数と,各区の健康診査受診率,健康教育回数,生活保護率,道路率,平均住宅地価格,商業地割合,年齢調整死亡率および高齢化率(65歳以上人口割合)との間に統計学的に有意な関連が認められた。
 2) 横浜市では,高齢化の進展に伴い,今後,救急搬送患者数の急激な増加が予想され,2000年に121,606人であった救急搬送患者数は,2030年には25万人を突破し,2050年には30万人近くに達すると予測された。
結語 横浜市においては人口の高齢化が進んでおり,救急医療需要の急激な増加が見込まれる。高齢化社会における救急医療体制という観点からの地域医療システムの整備が急務である。

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© 2003 日本公衆衛生学会
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