目的 わが国の過去15年間の医療事故に関する文献の出現頻度とその内容の変化を分析し,これらを社会情勢と対応させて医療者の医療事故に対する意識を明らかにすることを目的とした。
方法 医療事故(医療過誤を含む)に関する文献(以下,医療事故論文)の検索は,医学中央雑誌の15年間(1987年版から2001年版)の CD-ROM 完成版を用い,「医療事故」とそのシソーラス用語である「医療過誤」のキーワード検索を行った。社会情勢の指標として,日刊新聞に報道された医療事故に関する記事(以下,医療事故報道)および最高裁調べの毎年新たに医事訴訟として提訴された新受訴訟(以下,医事訴訟)の件数を用いた。医療事故報道件数は,新聞社二社のデータベースから 4 種類の抽出方法で検索した。医療事故論文件数と社会情勢の指標との関連は相関分析および時系列分析を行った。
結果 1) 医学中央雑誌に15年間に収載された医療事故論文件数は合計2,858件であり,全収載文献1,000件に対し平均0.78件の割合であった。
2) 医療事故論文件数は,1987年版の174件から漸増し,2000年版は333件,2001年版では618件であった。
3) 論文収載誌の分野は,看護系が8.9% (1989年版)から31.7% (1999年版)へと増加した。一方,医学系は68.8%から50.2%に減少した。
4) 医療事故報道件数は,どの検索法においても経年動向は類似しており,1999年から報道件数が増加し,2000年がピークであった。
5) 医事訴訟件数は,1990年の352件から漸増し,2001年は805件であった。
6) 医療事故論文件数と,日刊新聞報道件数および医事訴訟件数は,有意な相関関係を示した。これらの動向曲線の時系列分析から,医療事故論文件数の動向曲線は,日刊新聞 A の医療事故報道件数の動向曲線より 1 年の遅れが認められたが,論文作成までの期日やデータベースに収載されるまでの期日を考慮すると,医療事故論文件数の動向曲線は,日刊新聞報道件数および医事訴訟件数の動向曲線とよく追従していた。
結論 学術論文からみた医療事故論文にみる研究の動向は,日刊新聞における医療事故報道や医療訴訟などの動向曲線と一致していた。従って医療者の医療事故に対する意識は,社会情勢に追従していたことが明らかになった。
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