日本公衆衛生雑誌
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50 巻, 9 号
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原著
  • 藤原 奈佳子, 小笠原 浩美, 鈴村 初子, 宮治 眞
    2003 年 50 巻 9 号 p. 855-866
    発行日: 2003年
    公開日: 2014/12/10
    ジャーナル フリー
    目的 わが国の過去15年間の医療事故に関する文献の出現頻度とその内容の変化を分析し,これらを社会情勢と対応させて医療者の医療事故に対する意識を明らかにすることを目的とした。
    方法 医療事故(医療過誤を含む)に関する文献(以下,医療事故論文)の検索は,医学中央雑誌の15年間(1987年版から2001年版)の CD-ROM 完成版を用い,「医療事故」とそのシソーラス用語である「医療過誤」のキーワード検索を行った。社会情勢の指標として,日刊新聞に報道された医療事故に関する記事(以下,医療事故報道)および最高裁調べの毎年新たに医事訴訟として提訴された新受訴訟(以下,医事訴訟)の件数を用いた。医療事故報道件数は,新聞社二社のデータベースから 4 種類の抽出方法で検索した。医療事故論文件数と社会情勢の指標との関連は相関分析および時系列分析を行った。
    結果 1) 医学中央雑誌に15年間に収載された医療事故論文件数は合計2,858件であり,全収載文献1,000件に対し平均0.78件の割合であった。
     2) 医療事故論文件数は,1987年版の174件から漸増し,2000年版は333件,2001年版では618件であった。
     3) 論文収載誌の分野は,看護系が8.9% (1989年版)から31.7% (1999年版)へと増加した。一方,医学系は68.8%から50.2%に減少した。
     4) 医療事故報道件数は,どの検索法においても経年動向は類似しており,1999年から報道件数が増加し,2000年がピークであった。
     5) 医事訴訟件数は,1990年の352件から漸増し,2001年は805件であった。
     6) 医療事故論文件数と,日刊新聞報道件数および医事訴訟件数は,有意な相関関係を示した。これらの動向曲線の時系列分析から,医療事故論文件数の動向曲線は,日刊新聞 A の医療事故報道件数の動向曲線より 1 年の遅れが認められたが,論文作成までの期日やデータベースに収載されるまでの期日を考慮すると,医療事故論文件数の動向曲線は,日刊新聞報道件数および医事訴訟件数の動向曲線とよく追従していた。
    結論 学術論文からみた医療事故論文にみる研究の動向は,日刊新聞における医療事故報道や医療訴訟などの動向曲線と一致していた。従って医療者の医療事故に対する意識は,社会情勢に追従していたことが明らかになった。
  • 溝口 恭子, 輦止 勝麿, 丹後 俊郎, 簑輪 眞澄
    2003 年 50 巻 9 号 p. 867-878
    発行日: 2003年
    公開日: 2014/12/10
    ジャーナル フリー
    目的 近年,乳幼児のう蝕有病者率は著しい減少傾向にあるが,川崎市中原区における 3 歳児のう蝕有病者率は,1 歳 6 か月児のそれに比べ約 5 倍の増加がみられる。そこで,1 歳 6 か月時から 3 歳時にかけてのう蝕発生に関わる要因として,乳幼児期の家庭環境,生活習慣,食習慣,歯科保健行動について検討した。
    方法 平成13年 6 月から 9 月に川崎市中原保健所において 3 歳児健診を受診した者のうち,同保健所にて 1 歳 6 か月児健診を受診し,その健診においてう蝕のなかった者491人を調査対象とした。1 歳 6 か月児および 3 歳児健診結果,3 歳児健診時のアンケート調査票の結果を用いて,3 歳時のう蝕の有無別に比較検討した。う蝕発生と本研究で用いた要因について単変量解析で関連の強い要因を選択し,次に,選択された要因相互の関連性を調整したう蝕発生要因の決定にロジスティック回帰分析を適用した。
    結果 1 歳 6 か月時から 3 歳時にかけてのう蝕発生と有意に関連するリスク要因は,1 歳 6 か月時の母乳摂取「あり」(う蝕発生オッズ比2.80,95%CI:1.42-5.57),3 歳時の 1 日 3 回以上の甘味飲食「あり」(う蝕発生オッズ比2.07,95%CI:1.24-3.43)であった。保護者による毎晩の仕上歯みがきを「していない」のう蝕発生オッズ比は1.68(95%CI:0.90-3.14)と大きい傾向を示したが,有意ではなかった。
    結論 1 歳 6 か月時に母乳摂取を継続していると 1 歳 6 か月時から 3 歳時にかけてのう蝕発生のリスクが高まることが示唆された。また,3歳時で 1 日 3 回以上の甘味飲食の習慣がある児にう蝕「あり」の割合が高いことも示唆された。
  • 大重 賢治, 井伊 雅子, 縄田 和満, 水嶋 春朔, 杤久保 修
    2003 年 50 巻 9 号 p. 879-889
    発行日: 2003年
    公開日: 2014/12/10
    ジャーナル フリー
    目的 横浜市では,近年,救急車による搬送患者数が急激に増加している。本研究では,救急医療需要に影響を与えている地域的要因について分析し,将来の救急搬送患者数を予測する。
    方法 1995年から1999年の 5 年間について,横浜市各行政区(18行政区)における,人口1,000人あたりの年間救急搬送患者数(昼夜人口調整済)を目的変数とし,救急医療の需要に影響を与えると考えられる因子を各行政区ごとに集計したものを説明変数として用いて,重回帰分析を行った(パネル分析)。また,この分析によって得られたモデルに基づいて,救急搬送患者数の将来予測を行った。救急搬送に関する情報は,横浜市消防局発行の消防年報より得た。人口に関するデータは,横浜市企画局政策統計解析課の行政区別年齢別人口統計および1995年と2000年の国勢調査より入手した。その他,救急医療の需要に影響を与えると考えられる因子は,横浜市衛生年報,神奈川県衛生年報および横浜市統計書より得た。横浜市の将来人口推計は,1995年と2000年の国勢調査をもとに,コホート変化率法を用いて行った。
    結果 1) 各行政区における救急搬送患者数と,各区の健康診査受診率,健康教育回数,生活保護率,道路率,平均住宅地価格,商業地割合,年齢調整死亡率および高齢化率(65歳以上人口割合)との間に統計学的に有意な関連が認められた。
     2) 横浜市では,高齢化の進展に伴い,今後,救急搬送患者数の急激な増加が予想され,2000年に121,606人であった救急搬送患者数は,2030年には25万人を突破し,2050年には30万人近くに達すると予測された。
    結語 横浜市においては人口の高齢化が進んでおり,救急医療需要の急激な増加が見込まれる。高齢化社会における救急医療体制という観点からの地域医療システムの整備が急務である。
資料
  • 坂田 由紀子, 新保 慎一郎
    2003 年 50 巻 9 号 p. 890-896
    発行日: 2003年
    公開日: 2014/12/10
    ジャーナル フリー
    目的 第 1 報において我々は食生活,身体状況が排便回数や排便量に影響することを報告し,その詳細な検討には時系列的解析が必要であることを述べた。
     今回は前報に次いで排便についての時系列的解析を行い,排便量と摂取栄養素や摂取食品,運動量などとの相互関係,排便の日間変動に関係する要因についての検討を試みた。
    方法 21~22歳健常女子 4 名のそれぞれ30日間連続で 2 回調査した 8 群のデータを用いた。1 日の排便回数,1 回の排便量,自由摂取による食事量,摂取食品等の資料をもとに,測定量の規格化をおこなった。すなわち,各時系列間の比較は,群毎に計測値を平均値からの差として表し,振幅で規格化した相対量を用いた。自己相関係数,各系列間の相互相関,成分周期から時系列の性質を検討した。
    結果 データの時系列的解析から各データ群の排便量には,3~4 日の周期で日間変動があり,各変動の相同性の高い領域は,相関係数0.7以上であった。
     排便量と運動量,食事摂取量との関係は,前前日の「食物総量」が高い相関を示し,ついで「総食物繊維量」,「水分総量」の順であった。「脂質摂取量」,「歩数」の相関は低値であった。
     食品群別摂取量の比較では,「野菜類」,「果実類」,「穀類」,「いも及びでん粉類」の順に相関を示した。
  • 藤内 修二, 尾崎 米厚, 福永 一郎, 岩室 紳也, 糸数 公, 犬塚 君雄, 植田 紀美子, 尾島 俊之, 笹井 康典, 澁谷 いづみ, ...
    2003 年 50 巻 9 号 p. 897-907
    発行日: 2003年
    公開日: 2014/12/10
    ジャーナル フリー
    目的 本研究は,市町村母子保健計画の見直しやその推進に資する知見を提供することを目的とした。
    方法 母子保健計画の策定プロセスおよび策定後の母子保健事業の変化について,全国の市区町村に対して郵送調査を行った。
    結果 2,362自治体から回答が得られた(回収率:72.6%)。このうち,平成 9 年度までに策定を終えていた2,202自治体について分析を行った。
     策定委員会は63.9%の自治体で,作業部会は54.4%の自治体で設置されていた。作業部会は策定委員会に較べて,限られたメンバーで構成されており,特に,母親代表の参画は少なかった。作業部会を 5 回以上開催した自治体は作業部会を設置した自治体の37.5%であった。地域の母子保健事業に対するニーズを把握するため,住民や関係者に対するヒアリングやアンケートを実施していたのは56.0%であった。
     計画策定プロセスへの県型保健所の関わりでは,関係資料の提供が最も多く61.9%で,策定委員等としての参画38.5%,計画策定研修会の開催33.8%,首長などへの趣旨説明18.3%,策定組織の運営の支援12.1%,ニーズ分析への支援11.8%であった。
     計画内容の住民への周知や策定後の進行管理を行っている自治体は半数に満たなかった。人口規模の大きな自治体ほど住民への周知や進行管理を行っていた。
     計画策定後,72.9%の自治体で新規事業が始まっていたが,事業が廃止されたのは10.1%であった。策定に伴う母子保健事業の変化や他部局や関係機関との連携の促進は,おおむね人口規模の大きな自治体ほど多かった。
     保健所の支援を含む策定プロセスや計画書の活用状況,進行管理,策定後の母子保健事業の変化は,いずれも都道府県によって大きな格差を認めた。
  • 高橋 英孝, 中館 俊夫
    2003 年 50 巻 9 号 p. 908-918
    発行日: 2003年
    公開日: 2014/12/10
    ジャーナル フリー
    目的 聴覚障害者が健聴者と同様に健康診断を受けられる環境を構築することを最終目的とした研究の一環として行うものであり,健康診断を受診する際の問題点の把握と問題解決の方法を考察することを主目的とした。同時にろう者と中途失聴・難聴者の健康診断受診に関する特性および対応策の違いについても明らかにする。
    方法 東京都聴覚障害者連盟(以下「東聴連」)会員250人と東京都中途失聴・難聴者協会(以下「中難協」)会員100人を対象としてアンケート調査を実施した。調査項目は,健康診断の受診歴,受けたことのある検査名,検査を受けるときに困ること,検査を受けるときの対応,病院に対して希望する対応,医療機関での情報保障などである。調査票の回答頻度を集計すると共に,検査を受けるときに困ること,検査を受けるときの対応,病院に対して希望する対応の 3 項目については東聴連と中難協との間で比較を行った。
    結果 回答数者は151人で,男性56人,女性96人,不明 2 人,平均年齢54.8歳であった。健康診断を毎年受診している者は50.3%,一度も受けたことがない者は17.9%であった。検査を受けるときに困ることでは,順番が来たときに名前を呼ばれてもわからない,指示がわからない等が多かった。希望する対応としては東聴連会員が手話と文字での情報保障,中難協会員が文字による情報保障であった。
    結論 聴覚障害者は健聴者と比較して健康診断の受診率が低く,名前を呼ばれてもわからないことや指示がわからないことで困っていた。希望する対応はろう者と中途失聴・難聴者とで異なり,聴覚障害者に対する情報保障の方法としては手話と文字の両方が必要である。
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