日本公衆衛生雑誌
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総説
高齢者の早期死亡ならびに身体機能に及ぼす社会的サポートネットワークの役割 内外の研究動向と今後の課題
岸 玲子堀川 尚子
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2004 年 51 巻 2 号 p. 79-93

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抄録

 高齢者の社会的サポートネットワークと身体的健康の関連については,これまで多種多様な測定指標を用いた縦断研究が展開され,サポートネットワーク状況によってその後の高齢者の身体機能や生命予後が異なることが指摘されてきた。本稿では1980年以降に発表された国内外の文献を①社会的サポート効果,②社会的ネットワーク効果の観点から比較検討し,これまでの研究成果と今後の検討課題についてまとめた。得られた主な知見として,情緒的サポートの受領,ネットワークサイズの大きさ,社会活動への参加が高齢者の早期死亡や身体機能低下のリスクを低減することが挙げられる。これらの変数の効果には男女差が指摘されており,多くの場合女性よりも男性において効果が顕著であった。
 従来の研究の主題であったサポートネットワークの受領効果・ポジティブ効果に加え,近年は提供効果やネガティブ効果についても検討が進められてきた。提供効果として,ボランティア団体参加や他者へのサポート提供が身体機能の低下や早期死亡を抑制すること,ネガティブ効果として,不適切な手段的サポートは却って高齢者の心身の自立を損なうことが指摘されている。
 今後の課題として,サポートネットワークのポジティブ・ネガティブ効果,受領・提供効果の両面に目配りし,男女比較や地域比較によって,高齢者の生活に即したサポートネットワークの整備方法を明らかにすることが必要である。同時に,観察研究による知見を実際の地域における介護予防実践に応用し,医療や健康教育の実施と平行して高齢者の社会的接触を増やすような介入研究に展開していくことが求められる。

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© 2004 日本公衆衛生学会
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