日本公衆衛生雑誌
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公衆衛生活動報告
医学部公衆衛生実習で実施した循環器疾患ハイリスク者に対する減量指導の試み
奥田 奈賀子岡村 智教門脇 崇田中 太一郎上島 弘嗣
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2004 年 51 巻 7 号 p. 552-560

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抄録

目的 公衆衛生実習の一環として医学部学生が企画したハイリスク者に対する減量指導を実行し,職域における循環器疾患危険因子の改善を試みた。
方法 京都府の A 事業所において,前年(2001年11月)の定期健康診断結果で肥満(BMI≧24.0 kg/m2)と判定された者のうち,高血圧(収縮期血圧≧140 mmHg または拡張期血圧≧90 mmHg)または高コレステロール血症(血清総コレステロール値≧220 mg/dl)を有する45人より減量プログラムへの参加を希望した 8 人を指導群とした。希望しなかった者から指導群と性・年齢をマッチさせた16人を抽出して対照群を設定した。減量プログラムの実施は2002年 7 月から10月にかけての 3 か月間とし,期間中に 2 kg 減量することを目標とした。食生活状況調査,健康に関するクイズによるベースライン調査の後,2 回の面接指導と 4 回の通信指導を行った。食事調査は半定量的量頻度法,カメラ付き携帯情報端末による写真法(ウェルナビ,松下電工(株))および食事記録法を併用した。指導前年(2001年11月)と指導終了後(2002年11月)の定期健康診断結果より,指導群と対照群の体重,BMI,血圧値,血清総コレステロール値の変化を比較した。さらに指導群のうち減量目標達成者と非達成者について食品群別摂取量,栄養素摂取量を検討した。また指導前の健康クイズの正答率と体重変化量の関連も検討した。
成績 指導前年と指導終了後の定期健康診断結果より求めた体重の変化は指導群で−2.3 kg(標準偏差3.3 kg),対照群で+0.3 kg(標準偏差1.5 kg)であり,指導群と対照群で体重の変化量に有意差を認めた(P=0.013)。3 か月の指導プログラム前後の指導群の体重変化量は平均で−1.5 kg(標準偏差2.4 kg)であった。指導前年と指導終了後の定期健康診断結果より,血清総コレステロール値(指導群−32.1 mg/dl,対照群+0.5 mg/dl, P=0.005),収縮期血圧(指導群−9.5 mmHg,対照群+4.7 mmHg, P=0.083),拡張期血圧(指導群−2.8 mmHg,対照群+1.4 mmHg, P=0.438)の変化量も指導群で減少傾向を示し,血清総コレステロール値では有意差を示した。食事調査結果からは,減量目標達成群において魚類摂取量が増加し,油脂類,菓子類の摂取量が減少していた。また減量指導前の健康クイズの正答率が高い者ほど体重減少割合が高い傾向を認めた。
結論 勤務者のうち減量プログラム参加希望者を対象として医学生が主体となって減量指導を行い,対象者の循環器疾患危険因子を改善させることができた。様々な手法を通じた頻度の高い食事調査が肥満の改善に有用である事が示唆され,また集団全体に対して健康に関する知識を普及させることが指導の前提として必要であると考えられた。

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© 2004 日本公衆衛生学会
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