日本公衆衛生雑誌
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総説
米国がん登録修正法の特徴からみた日本の地域がん登録事業の法的現状と課題
田中 英夫
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2006 年 53 巻 1 号 p. 8-19

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抄録

 米国では1992年に発効した米国がん登録修正法によって,連邦政府が州政府による地域がん登録事業を法的,財政的,技術的に支援する形で,同事業が国家レベルで強化・標準化されている。一方,わが国の地域がん登録事業は,その基盤を安定させなければならない局面にある。そこで,米国がん登録修正法を概説し,その特徴を日本の地域がん登録の実状に照らして整理する。これを参考に,わが国で個別事業法を制定するとした場合の方向性,課題を検討する。本法の特徴は,①連邦政府は,州政府または州政府により指名を受けた学術又は非営利組織からの申請により,これを妥当と認めたときに,州の地域がん登録事業に対し,資金および技術支援を行うこと,②被助成資格は,(i)peer による査察要請に応じ,かつ,(ii)州法で a)登録の完全性を確保すること,b)国が示す登録項目を有し,データの即時性を確保すること,c)個人情報の保護および目的外使用を禁止すること,d)がん予防対策および研究への活用を保証すること,e)適法にがん登録に情報を届けたり,アクセスした者を法的に保護すること,を規定すること,③連邦政府は地域がん登録事業が未実施の州に対しても,申請に基き計画段階において資金と技術を支援することができること,と整理された。本法の効果として,①連邦政府は既存の各州における事業の運営基盤を大きく改変することなく,これを個々に強化する役割を担った。②登録項目やデータの即時性,完全性について標準化を進めることになった。③州議会が州法において,がん患者本人の意思を個別に確認することなく,がんを登録できる疾病であると規定することを保証した。④地域がん登録事業が未実施の州に対し,事業の開始を促した,と考えられた。日本独自の状況を考慮して法的整備の対象とするべき事項として,①がんを医師(医療機関)の届出義務のある疾病とすること,②死亡情報の効率的な利用,③院内がん登録の整備,④事業の国民,がん患者への周知責任,⑤がん登録を実施していない県内にある医療機関の役割,⑥個人情報の漏洩に対する関係者の罰則,が上げられた。

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© 2006 日本公衆衛生学会
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