日本公衆衛生雑誌
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53 巻, 1 号
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論壇
総説
  • 田中 英夫
    2006 年 53 巻 1 号 p. 8-19
    発行日: 2006年
    公開日: 2014/07/08
    ジャーナル フリー
     米国では1992年に発効した米国がん登録修正法によって,連邦政府が州政府による地域がん登録事業を法的,財政的,技術的に支援する形で,同事業が国家レベルで強化・標準化されている。一方,わが国の地域がん登録事業は,その基盤を安定させなければならない局面にある。そこで,米国がん登録修正法を概説し,その特徴を日本の地域がん登録の実状に照らして整理する。これを参考に,わが国で個別事業法を制定するとした場合の方向性,課題を検討する。本法の特徴は,①連邦政府は,州政府または州政府により指名を受けた学術又は非営利組織からの申請により,これを妥当と認めたときに,州の地域がん登録事業に対し,資金および技術支援を行うこと,②被助成資格は,(i)peer による査察要請に応じ,かつ,(ii)州法で a)登録の完全性を確保すること,b)国が示す登録項目を有し,データの即時性を確保すること,c)個人情報の保護および目的外使用を禁止すること,d)がん予防対策および研究への活用を保証すること,e)適法にがん登録に情報を届けたり,アクセスした者を法的に保護すること,を規定すること,③連邦政府は地域がん登録事業が未実施の州に対しても,申請に基き計画段階において資金と技術を支援することができること,と整理された。本法の効果として,①連邦政府は既存の各州における事業の運営基盤を大きく改変することなく,これを個々に強化する役割を担った。②登録項目やデータの即時性,完全性について標準化を進めることになった。③州議会が州法において,がん患者本人の意思を個別に確認することなく,がんを登録できる疾病であると規定することを保証した。④地域がん登録事業が未実施の州に対し,事業の開始を促した,と考えられた。日本独自の状況を考慮して法的整備の対象とするべき事項として,①がんを医師(医療機関)の届出義務のある疾病とすること,②死亡情報の効率的な利用,③院内がん登録の整備,④事業の国民,がん患者への周知責任,⑤がん登録を実施していない県内にある医療機関の役割,⑥個人情報の漏洩に対する関係者の罰則,が上げられた。
原著
  • 山口 通代, 櫻井 博貴, 清水 通彦, 對尾 征彦, 中川 宣子, 増井 恒夫, 宮﨑 豊
    2006 年 53 巻 1 号 p. 20-28
    発行日: 2006年
    公開日: 2014/07/08
    ジャーナル フリー
    目的 愛知県脳卒中登録事業の資料を用い,脳卒中の病型別の合併症(脳卒中既往歴を含む)および予後に関する実態把握を実施し,寝たきりや痴呆の主な原因となる脳卒中の予防対策の充実のための基礎的検討を行った。
    方法 1993年 1 月から2000年12月までに県内の医療機関から登録された27,304例のうち23,979例(脳血栓症,脳塞栓症,脳内出血,くも膜下出血の 4 病型)を解析対象とし,性別,年齢層別,および,病型別に,短期的予後{転帰時(脳卒中登録時)における生死,介助・痴呆の有無}に影響を及ぼす合併症等について比較検討した。
    成績 1. 男性13,365例(55.7%),女性10,614例(44.3%)の平均年齢はそれぞれ65.5±12.2歳(mean±SD), 69.7±13.3歳で,女性の方が有意に高かった(P<0.001)。
     2. 病型別の発生頻度は,男女ともに脳血栓症が最も高く(男性:49.5%,女性:41.1%),ついで脳内出血(男性:30.4%,女性:29.8%)であった。また,くも膜下出血の割合は,女性での割合(17.3%)が男性(8.3%)のほぼ 2 倍と高かった。
     3. 合併症等の割合は,高血圧が男女とも約50%と最も高く,ついで脳卒中既往歴(男性:20.1%,女性:16.2%)であった。
     4. 転帰時における生存者の割合は男性(84.7%)が女性(81.0%)より有意に高かった(P<0.001)。病型別では,くも膜下出血が他病型に比べて男女とも約60%と有意に低かった(P<0.001)。生存者における要介助,痴呆の割合は,ともに女性(要介助:54.5%,痴呆:21.1%)が男性(要介助:44.2%,痴呆:15.1%)より有意に高かった(P<0.001)。
     5. ロジスティック回帰分析の結果,死亡に寄与する因子は高齢,脳卒中既往歴,心疾患,腎不全であり,要介助および痴呆に寄与する因子は女性,高齢,脳卒中既往歴,心疾患,腎不全であった。一方,脂質代謝異常は予後(死亡,要介助,痴呆)の保護因子となっていた。
    結論 脳卒中の合併症等については高血圧の割合が脳塞栓症を除く 3 病型で最も高く,また,生命および機能予後(介助・痴呆)については,性・年齢の影響を取り除いても脳卒中既往歴が最大の不良因子であることが示された。脳卒中の発生予防の為には,最大の合併症である高血圧をはじめ,糖尿病,心疾患などの合併症の除去,低減化に努めるとともに,生命・機能予後の向上には,脳卒中の再発防止が最も重要であることが示された。
資料
  • 吉江 悟, 齋藤 民, 高橋 都, 甲斐 一郎
    2006 年 53 巻 1 号 p. 29-39
    発行日: 2006年
    公開日: 2014/07/08
    ジャーナル フリー
    目的 介護支援専門員がケース対応に関して抱く困難感やそれに対する研修等の支援の実態と,個人・事業所特性や支援と困難感の有無との関連を示し,支援に対するニーズの所在を明確にすることを目的とした。
    方法 層化比例抽出による10都道府県計500事業所の介護支援専門員を対象とした郵送調査を実施し,268事業所から556人の回答を得た。
    結果 「痴呆」,「独居」,「家族関係不良」,「苦情・要求過多」,「意向にズレ」,「経済的問題」,「サービス拒否」,「キーパーソン不在」,「医療依存」,「精神障害」,「虐待」,「事業者との関係不良」の12種類のケース類型に関して,最近 1 年間で困難を感じた者の割合は,最も低い項目でも40%以上であり,最近 1 年間でこれらのケースを担当した経験のある者に限った場合には,ほとんどの項目で80%を上回る高い割合となった。特性との関連を検討した結果,①在宅介護支援センター職員兼任者は介護支援専門員専任者と同等の介護支援専門員業務を行っている可能性があり,業務内容について見直しの必要性が推察された。②基礎資格が看護師である者は,「医療依存」,「精神障害」に関して困難を感じた割合が有意に低く,他の者への重点的支援と,支援資源として看護師介護支援専門員の活用可能性が示唆された。③全般的に経験年数の長い者の方が困難を感じた割合が高かった。現任研修においては,彼らを対象に本研究で用いたようなケース類型に関連するテーマの研修を提供することで,よりニーズに合致したものとなる可能性が考えられた。
    結論 本研究は,ケースへの対応に関して介護支援専門員が抱く困難感の実態と,介護支援専門員の特性,社会的支援,研修との関連を全国サンプルで明らかにした初めての研究である。研究結果をもとに,特にニーズが高いと考えられる対象には,重点的に支援を提供することが重要だと考えられる。
  • 康永 秀生, 井出 博生, 今村 知明, 大江 和彦
    2006 年 53 巻 1 号 p. 40-50
    発行日: 2006年
    公開日: 2014/07/08
    ジャーナル フリー
     アンケート調査の方法として,従来から郵送調査法・面接調査法などが汎用されている。インターネット調査法の医学研究への適用は,その有用性や妥当性についていまだ評価が確立していない。今回,2005年 4 月現在までに報告された,インターネット・アンケートを利用した邦文医学研究論文36編をレビューした。インターネット調査法を用いた原著論文の絶対数は,近年若干の増加傾向を認めるものの依然として少ない。アレルギー疾患(アレルギー性鼻炎,アトピー性皮膚炎,蕁麻疹など)など,青壮年層の患者数が多い疾患を対象とした研究が比較的多い。従来法と比較して,インターネット調査法の利点として,(1)調査者・回答者双方の利便性が高い,(2)データ回収が迅速である,点が挙げられる。欠点として,(1)利用者の年齢層が偏っている,(2)モニター登録という有意抽出法が採用されるため,無作為抽出法と比較して標本誤差が発生しうる,点が挙げられる。しかしながら,近年のインターネットの爆発的な普及拡大によって,利用者の年齢層の偏りは解消されていくことが期待される。高齢者層にもアンケート対象が拡大すれば,より多くの疾病について研究が可能となる。インターネット調査法の利点を考慮すれば,今後は社会医学・臨床医学研究における有力なツールのひとつになりうると考えられる。
  • 戸ヶ里 泰典, 山崎 喜比古, 小出 昭太郎, 宮田 あや子
    2006 年 53 巻 1 号 p. 51-57
    発行日: 2006年
    公開日: 2014/07/08
    ジャーナル フリー
    目的 地域や職場等の保健計画において,能力面の評価指標として Perceived Health Competence Scale (PHCS)が期待されている。そこで PHCS 日本語版のワーディングを修正した修正版 PHCS 日本語版の信頼性および妥当性を検討することを本研究の目的とする。
    方法 日本国民全体より層化二段抽出した男女3,000人に対し,面接法を行い1,910人より回答を得た(回収率63.7%)。信頼性分析として,Cronbach α(以下 α)係数による内的一貫性の確認と,Item-Total 相関分析,および項目削除時の α 係数を算出した。妥当性の検討として,PHCS スコアと性,年齢,慢性疾患の有無,18歳時の慢性疾患の有無の 4 つの属性特性との関連性について,および健康関連ライフスタイルの各指標との関連について一般線形モデル(General linear model; GLM)による分散分析を行い,内容妥当性および構成概念妥当性の検討を行った。
    成績 α 係数は.869と十分な値となった。また,Item-Total 相関,項目削除時の α 係数では異常値はみられず一定の信頼性が確保された。一方,年齢に関しては60歳以上と未満とで差がみられた。慢性疾患をもつ人,および18歳時に慢性疾患をもっていた人のほうが低い PHCS スコアであることが明らかとなった。また,性,年齢,慢性疾患の有無,18歳時の慢性疾患によらず,PHCS スコアは,喫煙,運動,食習慣と大きく関連が見られたが,飲酒,健診受診頻度とは関連がみられなかった。
    結論 修正版 PHCS 日本語版の信頼性,妥当性は概ね示された。修正版 PHCS 日本語版は使用可能であると考えられる。また,縦断研究による PHCS の予測妥当性の検討のほか,形成要因・介入方法の検討が望まれる。
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