日本公衆衛生雑誌
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総説
小児保健と QOL 研究 現状と今後の課題
松田 智大野口 真貴子梅野 裕子加藤 則子
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キーワード: 小児保健, QOL, 発育, 評価尺度
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2006 年 53 巻 11 号 p. 805-817

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抄録

 保健医療分野での QOL(Quality of Life,生活の質)の評価は,評価対象者本人の自己評価を基本とし,精神測定学の手法を用いた複数の質問から構成される「評価尺度」として発展してきた。小児保健における QOL 研究もアメリカ合衆国を中心に80年代後半から総合的に行われるようになり,小児の環境適応での柔軟性と,保健医療評価においての小児自身の視点の重要性が認識されている。客観的指標と主観的指標が乖離し,環境要因の強い影響をうけ,思春期・青年期の健康を予期するようなことから,小児保健での QOL 研究は大きな意味をもつ。
 既存の包括的 QOL 評価尺度として有名なものでは CHQ, PedsQL, TACQOL/TAPQOL, COOP チャートなどおよそ20が存在する。疾病別では,小児において特に多くの先行研究がみられるのは,癲癇,喘息,アレルギー疾患であり,その他にも糖尿病や皮膚疾患,がんなどが研究対象となっている。QOL 評価は対象者本人が回答することが原則となっている。5 歳頃の段階において,自らの体の痛みや,健康状態を表現できるようになり,9~10歳になるとふるまい,自尊心といった抽象的な概念も理解できるようになるとされる。近年発達・普及が著しいコンピュータなどのメディアを利用すれば,低年齢の小児に対してもより精度の高い評価が実施できるようになるであろう。回答の信頼性の低さや,国際比較上の問題,成長に伴う価値観の変容などが解決すべき問題点である。
 小児保健分野で QOL 研究が発展し,小児自身の視点を保健医療に含めることができれば,医療機関や行政機関における治療方針や保健医療政策の決定がより効果的かつ公正になることが期待される。

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© 2006 日本公衆衛生学会
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