日本公衆衛生雑誌
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53 巻 , 11 号
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総説
  • 松田 智大, 野口 真貴子, 梅野 裕子, 加藤 則子
    2006 年 53 巻 11 号 p. 805-817
    発行日: 2006年
    公開日: 2014/07/08
    ジャーナル フリー
     保健医療分野での QOL(Quality of Life,生活の質)の評価は,評価対象者本人の自己評価を基本とし,精神測定学の手法を用いた複数の質問から構成される「評価尺度」として発展してきた。小児保健における QOL 研究もアメリカ合衆国を中心に80年代後半から総合的に行われるようになり,小児の環境適応での柔軟性と,保健医療評価においての小児自身の視点の重要性が認識されている。客観的指標と主観的指標が乖離し,環境要因の強い影響をうけ,思春期・青年期の健康を予期するようなことから,小児保健での QOL 研究は大きな意味をもつ。
     既存の包括的 QOL 評価尺度として有名なものでは CHQ, PedsQL, TACQOL/TAPQOL, COOP チャートなどおよそ20が存在する。疾病別では,小児において特に多くの先行研究がみられるのは,癲癇,喘息,アレルギー疾患であり,その他にも糖尿病や皮膚疾患,がんなどが研究対象となっている。QOL 評価は対象者本人が回答することが原則となっている。5 歳頃の段階において,自らの体の痛みや,健康状態を表現できるようになり,9~10歳になるとふるまい,自尊心といった抽象的な概念も理解できるようになるとされる。近年発達・普及が著しいコンピュータなどのメディアを利用すれば,低年齢の小児に対してもより精度の高い評価が実施できるようになるであろう。回答の信頼性の低さや,国際比較上の問題,成長に伴う価値観の変容などが解決すべき問題点である。
     小児保健分野で QOL 研究が発展し,小児自身の視点を保健医療に含めることができれば,医療機関や行政機関における治療方針や保健医療政策の決定がより効果的かつ公正になることが期待される。
  • 康永 秀生, 井出 博生, 今村 知明, 大江 和彦
    2006 年 53 巻 11 号 p. 818-830
    発行日: 2006年
    公開日: 2014/07/08
    ジャーナル フリー
     保健医療サービスの便益を測定する手段として,仮想評価法(contingent valuation method, CVM)が知られる。仮想評価法は,アンケート調査を用いて,仮想的な市場を描いたシナリオの下でのサービスに対する被験者の支払意思額(Willingness to Pay, WTP)を推定する手法である。われわれは本稿において,保健医療サービスの仮想評価法に関するこれまでの海外研究を概説し,本邦研究のレビューを行った。MEDLINE, EconLit,医学中央雑誌を用いて検索された本邦研究14編(英文 5 編,和文 9 編)について,アンケート調査の方法,仮想的シナリオに含むべき情報,支払意思額の質問形式,仮想評価法に特異的なバイアスの問題,妥当性・信頼性,事後評価・事前評価,利他的支払意思,非健康価値,以上の 8 項目を検証した。本邦研究では,(1)仮想的シナリオに含むべき情報が十分でない研究がある,(2)バイアスの存在や対処法を実証した研究はない,(3)妥当性は一部検証されているが,信頼性のテストは実施されていない,(4)すべて事後的利用者基盤評価である,(5)利他的支払意思や非健康価値は十分に検討されていない,ことが明らかとなった。仮想評価法は,その様々な利点を勘案すれば,他の経済評価手法を補完しうる有力な分析ツールになりうると考えられる。本邦において,仮想評価研究はまだその端緒が開かれたばかりである。多くの保健医療従事者に仮想評価法が活用され,本邦の医療経済研究がさらに活性化されることが期待される。
原著
  • 西原 玲子, 服部 律子, 小林 葉子, 早川 和生
    2006 年 53 巻 11 号 p. 831-841
    発行日: 2006年
    公開日: 2014/07/08
    ジャーナル フリー
    目的 育児不安は順調な母子関係の発達を妨げ児童虐待の大きな要因となることが考えられており,近年育児不安への関心は高まっている。なかでも双生児の母親は育児の身体的負担や疲労感が大きいと報告されている。本研究では,双生児の母親は単体出生児の母親に比べて育児不安が高いのかについて調べること,母親の育児不安と児の精神運動発達との関連性を検討することを目的とする。
    方法 双生児の母親については,2005年 3 月~同 5 月の期間において 0 歳から 2 歳の双生児を持ち,近畿圏にある17か所の育児サークルを利用する者218人に,無記名の自記式質問紙を配付した。218人のうち調査協力に同意した124人(回収率56.9%)の母親から回答を得たのち,分析対象は脳性麻痺であった児を持つ母親等を除く119人(有効回答率96.0%)とした。単胎出生児については,同期間において近畿圏の 4 か所の保育園を利用する者と 2 か所の乳幼児健診に集まった者348人へ,無記名の自記式質問紙を配付した。このうち調査協力の得られた101人(回収率28.1%)から回答を得た。分析対象は双生児 1 人と 3 歳児であった 3 人を除く97人(有効回答率96.0%)とした。質問紙の内容では,育児不安の操作的定義を「子ども総研式・育児支援質問紙」にあげられる育児困難感とした。発達の指標には,「津守・稲毛式乳幼児精神発達質問紙」の内容を用いた。
    結果 1. 双生児と単胎出生児との比較では,1,2 歳の双生児の母親の方が育児への困惑を表す「育児困難感I」,子どもへのネガティブな感情を表す「育児困難感II」ともに合計得点が高かった。
     2. ロジスティック回帰分析の結果,0 歳,1 歳の双生児と単胎出生児では育児不安と精神運動発達との関連はみられなかったが,2 歳の双生児において子どもへのネガティブな感情を示す「育児困難感II」が高いことと児の精神運動発達が遅れることに関連性がみられた。
    結論 2 歳の双生児をもつ母親において,育児不安の中でも「育児困難感II」と児の発達とに関連がみられたことから,育児に対する自信のなさや心配感というよりも母親の精神的に追い詰められている状態が子どもとの関わりの質に影響すると考えられる。育児不安は単に母親の問題だけではなく子どもの発達を促すためのよい環境とはいえないという点で,とくに双生児を持つ母親において重要な問題であることが明らかとなった。
  • 古谷野 亘, 上野 正子, 今枝 眞理子
    2006 年 53 巻 11 号 p. 842-850
    発行日: 2006年
    公開日: 2014/07/08
    ジャーナル フリー
    目的 健康行動と健康意識の間にある構造的な関係を解明し,健康行動・健康意識の発現をもたらす潜在因子の存在を明らかにすることを目的とした。
    方法 本研究は,東京都豊島区が2002年に実施した「豊島区民の健康に関する意識調査」の 2 次解析によって行われた。調査は,同区に居住する20~79歳の男女3,000人を対象として郵送法により実施され(有効回収率54.3%),回答者のうち欠損値のない1,301人のデータが分析に用いられた。健康意識・健康行動に関わる23の質問項目を観測指標とする 2 次因子モデルを作成し,解析した。
    結果 解析の結果,23個の観測指標と 9 個の第 1 次因子,1 つの第 2 次因子から成るモデルの適合度は高く,健康意識・健康行動の構造を説明するモデルとして妥当なものであることが明らかになった。23項目の健康意識と健康行動は,いずれも潜在的な第 2 次因子「健康志向」の反映であった。第 2 次因子「健康志向」の因子得点は,健康教室や健診などの保健所事業への参加意向をもつ者で有意に高かった。
    結論 本研究の結果は,健康志向の強化によって,健康意識の向上と健康行動の実践をもたらしうることを示している。従来からの保健所事業には健康志向の弱い人は参加しない傾向にあり,再考の必要のあることが示唆された。
公衆衛生活動報告
  • 千葉 敦子, 三浦 雅史, 大山 博史, 竹森 幸一, 山本 春江
    2006 年 53 巻 11 号 p. 851-858
    発行日: 2006年
    公開日: 2014/07/08
    ジャーナル フリー
    目的 介護予防筋力トレーニング事業マニュアルに基づいた包括的な筋力向上トレーニングプログラムとして実施したトレーニング教室が,虚弱高齢者の健康関連 QOL に及ぼす影響を検討した。
    方法 包括的筋力トレーニングプログラムに参加した虚弱高齢者19人を対象とした。健康関連評価スケール(MOS36-Item Short-Form Health Survey: SF36v2)を用い,トレーニング前,トレーニング後,トレーニング終了 3 か月後の QOL を評価した。
     対象者の感想及び主観的な効果について聞き取り調査を行い,質的な内容分析を行った。
    成績 本対象者と同年齢の層別日本国民標準値の SF36v2 における QOL 得点の一致を予め確認した。包括的筋力トレーニングの実施に伴い,時間的に有意な変化がみられた健康関連 QOL は,8 項目中「身体機能」,「身体の痛み」,「全体的健康感」,「活力」の 4 項目であり,いずれもトレーニング前に比しトレーニング後で改善していた。トレーニング終了 3 か月後の評価では,「身体機能」のみ有意な改善が認められ,他の QOL についてはトレーニング前と変化がみられなかった。トレーニング終了 3 か月後においても,「身体機能」に関する QOL の改善効果は維持されることが明らかになった。
     主観的な効果に関する聞き取り調査では,【行動を行うことの容易性】,【幸福感・満足感の向上】,【継続の意欲】が抽出された。
    結論 包括的筋力トレーニングが,虚弱高齢者の QOL 向上に影響を与えたことが示唆された。また,「身体機能」に関する QOL は,トレーニング終了 3 か月後においても改善効果が維持継続されることが示された。
資料
  • 田中 恵子, 池田 順子, 福田 小百合, 入江 祐子
    2006 年 53 巻 11 号 p. 859-869
    発行日: 2006年
    公開日: 2014/07/08
    ジャーナル フリー
    目的 地域住民を対象に栄養成分表示(以下成分表示と省略)を参考にしている者の特徴を明らかにして,今後の成分表示の普及と制度のあり方を検討していくための基礎的な知見を得ることを目的とした。
    方法 平成16年11月に実施した京都府乙訓保健所健康づくり・生活習慣状況調査の有効回答者である20歳から79歳までの男女2,112人を解析対象者とした。食品購入時と外食における成分表示の参考状況を調べ,対象者を成分表示参考区分として参考群と非参考群に分類した。これらの 2 区分と生活習慣との関連はクロス集計で,食生活状況の検討は食生活スコアを算出して区分間の差を検討した。なお,解析はすべて性・年齢階級別に行った。
    結果 1) 対象者の42.3%が成分表示を参考にしていた。性・年齢階級別の検討から,男性の20~59歳においては,外食の成分表示を参考にする必要性が高いにもかかわらず,成分表示をみたことがあっても参考にしない者が多いという問題点が示された。
     2) 成分表示の参考状況と生活習慣との関連を検討した結果,健康への意識が高く,好ましい生活習慣を有する者ほど成分表示を参考にしているという実態が示された。
     3) 幾つかの性・年齢階級で,健康情報を新聞や雑誌,専門書などの活字から得る習慣のある者に,参考群の割合が高いという関連がみられた。
     4) 男性の60~79歳で糖尿病や肥満の,女性の60~79歳では高脂血症の指摘や治療経験がある者に参考群の割合が高かったが,関連がみられた階級においても参考群の割合は半数以下であった。また,高血圧症においては,女性の60~79歳で,指摘や治療経験がある者に参考群の割合がより低い傾向がみられた。
    結論 今後の成分表示の普及においては,20~59歳男性住民に重点を置き,さらに,いまだ現行の成分表示を参考にしていない者は,すでに参考にしている者に比べて,健康への意識が低い,好ましくない生活習慣を有している,健康情報を新聞,雑誌あるいは専門書などの活字から得る習慣がないという傾向があることを踏まえる必要があると考えられた。
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