日本公衆衛生雑誌
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公衆衛生活動報告
高齢転居者に対する社会的孤立予防プログラムの実施とその評価の試み
斎藤 民李 賢情甲斐 一郎
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2006 年 53 巻 5 号 p. 338-346

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抄録

目的 社会的孤立から「閉じこもり」になる可能性が指摘される高齢転居者を対象に,ネットワークづくりと地域に関する情報の活用を目的とする支援プログラムを開発・試行し,その有用性を検討した。
方法 1) 介入および効果評価の対象は,2002年12月から2003年 8 月の間に東京都 A 市に転入した65歳以上男女のうち,プログラムへの参加に同意した18人である。プログラムは,高齢転居者のニーズ,既存の社会的孤立予防プログラムおよび高齢転居者への支援プログラムを参考に開発され,2004年11月から12月,毎回 2 時間,計 3 回実施された。介入効果の評価項目として,(手段的)日常生活動作能力,抑うつ度,孤立感,社会的ネットワーク,グループ活動への参加,就労,日中独居頻度,サービス認知度等を測定した。
 2) プログラムへの不参加理由については,参加に同意しなかった高齢転居者 7 人を対象に,電話による聞き取りを行った。
 3) プログラムへの参加者による評価については,プログラムの最終回(第 3 回)に参加した12人を対象に,プログラム全体への満足度,役立ち感,実施回数に対する評価等を尋ねた。
成績 1) 参加同意者18人中,男性 9 人(50.0%),平均年齢73.3±6.8歳であった。実際に 1 回以上参加した14人の参加回数別内訳は,全 3 回が 7 人(50.0%),2 回が 6 人(42.9%),1 回が 1 人(7.1%)であった。
 2) 不参加理由として,体調不良,忙しさ,興味のなさ,転出が挙げられた。
 3) 参加者によるプログラム全体への満足度は高かったが,実施回数について「丁度良い」と評価したのは58.3%のみであった。
 4) 介入前後の比較では,日中独居頻度(P<.05),介護保険外サービス認知度(P<.10)が改善し,有意ではないが,グループ活動への参加および就労割合が増加した。その他の変数には有意な改善効果はみられなかった。
結論 参加者数が少なく一般化可能性に限界があるが,本研究における支援プログラムは,社会的孤立予防に一定の効果があり,参加者による評価が高い可能性が示唆された。ただし,対象者への周知方法,転入後期間がどの程度の者を対象とするか,およびプログラムの実施回数に検討の余地がある。今後,これらの点を改善するとともに,対照群を設定した効果評価や費用対効果も含む中長期的評価についても実施する必要性が示唆された。

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© 2006 日本公衆衛生学会
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