日本公衆衛生雑誌
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53 巻, 5 号
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総説
  • 宮田 裕章, 甲斐 一郎
    2006 年 53 巻 5 号 p. 319-328
    発行日: 2006年
    公開日: 2014/07/08
    ジャーナル フリー
     保健・医療分野における定量的研究と定性的研究のパラダイム間のつながりについての議論は多くの場合混乱したものであり,散乱する用語と議論によって,概念が不明瞭かつ認識困難となってしまっている。このような状況で,厳密さを確立するための評価基準を再構築することは重要である。本研究では,定量的研究・定性的研究における評価基準の背景にある認識論を考察し,多重選択のパラダイムにより,状況や目的の設定によって,どのような評価基準を選択する必要があるのかを議論した。定量的研究・定性的研究の比較議論の中で最も重要な概念は Lincoln らが指摘した妥当性/信用性,信頼性/一貫性,客観性/確証性,一般化可能性/転用可能性の対比である。これらの対比点はそれぞれ,観察の枠組みの設定,観察における安定性の仮定,観察者と被観察事象の影響,知見の適用範囲についての認識の違いであると考えられる。ただし現状でも,全ての定性的研究の手法が後者のパラダイムを選択している訳ではなく,一部の安定性など前者の仮定が部分的に成り立つ範囲において,そのパラダイムによる評価を行うことは有用であると考えられる。定量的研究においても,全ての研究で解釈の余地がない枠組みや普遍的な一般化,観察の全プロセスへの安定性,などの前提が仮定できる訳ではない。適用範囲外への知見の外挿や,安定性が確保できない範囲について,後者のパラダイムを用いた評価を行うことは厳密さを高める上で有用である。定量的・定性的の研究手法に関わらず研究者は各々の状況について,1. 観察の枠組み,2. 観察における安定性,3. 観察者と被観察事象の影響,4. 知見の適用範囲,の各項目に関してどの様な前提を設定することができるか認識し,設定に応じたバランスによって厳密さの評価を行う必要があると考えられる。
原著
  • 中野 匡子, 矢部 順子, 安村 誠司
    2006 年 53 巻 5 号 p. 329-337
    発行日: 2006年
    公開日: 2014/07/08
    ジャーナル フリー
    目的 地域高齢者における HPI(健康習慣指数:良い生活習慣の保有数)および生活習慣と死亡との関連を明らかにする。
    方法 福島県須賀川市の地域住民を対象としたコホート研究を実施した。ベースライン調査として,「69歳以下群(40~69歳)」および「70歳以上群」の 2 群から 3 分の 1 抽出した8,746人および2,718人に,自記式調査票による郵送調査を行った。調査時期は,69歳以下群は平成13年 2 月,70歳以上群は同 7 月とした。質問項目は,身長,体重,Breslow の 7 つの生活習慣(BMI,睡眠時間,喫煙,飲酒,朝食,運動,間食),疾病の有無(脳卒中,高血圧,狭心症・心筋梗塞,心や精神の病気),健康度自己評価,閉じこもりの有無(70歳以上群のみ)とした。69歳以下群の有効回答者5,657人(64.7%),70歳以上群の有効回答者2,019人(74.3%)について住民基本台帳に基づき死亡・転出状況を確認した。観察期間は,69歳以下群は 3 年 7 か月,70歳以上群は 3 年 3 か月とした。7 つの生活習慣の各項目および HPI と観察開始 1 年以降 2 年以内の死亡とのクロス集計,および,Kaplan-Meier 法による累積生存率の測定とコックスの比例ハザードモデルによる多変量解析を行った。HPI は,睡眠,BMI,運動,喫煙,飲酒の 5 習慣の得点を合計した。
    成績 1. クロス集計結果では,69歳以下群では,個々の生活習慣および HPI と死亡に有意な関連はみられなかった。70歳以上群では,HPI と運動について習慣良好群で有意に死亡者の割合が低かった。2. 70歳以上群では,HPI が高い群は累積生存率が有意に高かった。コックスの比例ハザードモデルによる多変量解析では,69歳以下群では,HPI と死亡に有意な関連はみられなかった。70歳以上群では,HPI が高い群の死亡のリスクが有意に低かった。他の変数のうち,死亡と有意な関連がみられたのは,年齢,性,健康度自己評価,閉じこもりの有無であった。また,HPI に代えて 7 つの生活習慣の各項目を投入すると,70歳以上群では,7 習慣のうちでは運動のみが,死亡と有意な関連がみられた。
    結論 1. 高齢者で良い生活習慣を保持することが生命予後を良くする。2. 生命予後を予測する指標として HPI という概念は有用である。3. 生命予後を良くするために運動と閉じこもりの防止が重要である。
公衆衛生活動報告
  • 斎藤 民, 李 賢情, 甲斐 一郎
    2006 年 53 巻 5 号 p. 338-346
    発行日: 2006年
    公開日: 2014/07/08
    ジャーナル フリー
    目的 社会的孤立から「閉じこもり」になる可能性が指摘される高齢転居者を対象に,ネットワークづくりと地域に関する情報の活用を目的とする支援プログラムを開発・試行し,その有用性を検討した。
    方法 1) 介入および効果評価の対象は,2002年12月から2003年 8 月の間に東京都 A 市に転入した65歳以上男女のうち,プログラムへの参加に同意した18人である。プログラムは,高齢転居者のニーズ,既存の社会的孤立予防プログラムおよび高齢転居者への支援プログラムを参考に開発され,2004年11月から12月,毎回 2 時間,計 3 回実施された。介入効果の評価項目として,(手段的)日常生活動作能力,抑うつ度,孤立感,社会的ネットワーク,グループ活動への参加,就労,日中独居頻度,サービス認知度等を測定した。
     2) プログラムへの不参加理由については,参加に同意しなかった高齢転居者 7 人を対象に,電話による聞き取りを行った。
     3) プログラムへの参加者による評価については,プログラムの最終回(第 3 回)に参加した12人を対象に,プログラム全体への満足度,役立ち感,実施回数に対する評価等を尋ねた。
    成績 1) 参加同意者18人中,男性 9 人(50.0%),平均年齢73.3±6.8歳であった。実際に 1 回以上参加した14人の参加回数別内訳は,全 3 回が 7 人(50.0%),2 回が 6 人(42.9%),1 回が 1 人(7.1%)であった。
     2) 不参加理由として,体調不良,忙しさ,興味のなさ,転出が挙げられた。
     3) 参加者によるプログラム全体への満足度は高かったが,実施回数について「丁度良い」と評価したのは58.3%のみであった。
     4) 介入前後の比較では,日中独居頻度(P<.05),介護保険外サービス認知度(P<.10)が改善し,有意ではないが,グループ活動への参加および就労割合が増加した。その他の変数には有意な改善効果はみられなかった。
    結論 参加者数が少なく一般化可能性に限界があるが,本研究における支援プログラムは,社会的孤立予防に一定の効果があり,参加者による評価が高い可能性が示唆された。ただし,対象者への周知方法,転入後期間がどの程度の者を対象とするか,およびプログラムの実施回数に検討の余地がある。今後,これらの点を改善するとともに,対照群を設定した効果評価や費用対効果も含む中長期的評価についても実施する必要性が示唆された。
資料
  • 北村 明彦, 中川 裕子, 今野 弘規, 木山 昌彦, 岡田 武夫, 佐藤 眞一, 佐藤 實, 岡田 廣, 飯田 稔, 嶋本 喬
    2006 年 53 巻 5 号 p. 347-354
    発行日: 2006年
    公開日: 2014/07/08
    ジャーナル フリー
    目的 わが国の都市部において発生する脳卒中の病型割合の実態,およびその動向については明らかでない。そこで,大阪の一都市において,1990年代~2000年代の脳卒中入院患者を Hospital-based に調査し,脳卒中の入院患者率ならびに病型割合の推移について検討した。
    方法 対象地域は大阪府八尾市(2000年人口274,777人)である。1992年(I期),97年(II期),2002年(III期)の各 1 年間に,市内の90床以上の10病院に,脳卒中発症により入院した40歳以上の市民を全数登録した。脳卒中の病型は,症状,既往,塞栓源の有無,CT・MRI 所見等を基に,脳出血,脳梗塞,くも膜下出血に分類し,さらに,脳梗塞については,穿通枝系梗塞,皮質枝系梗塞(血栓型,塞栓型,分類困難)に分類した。
    成績 脳卒中入院者数(初発例)は,I期190人,II期206人,III期254人であった。人口に対する脳卒中入院患者率は,I期からIII期にかけて,男の40~59歳で有意に増加し,女の70歳以上で有意に減少した(いずれも P<0.001)。脳卒中全体に占める各病型の割合は,男女いずれの年齢層でも,I期からIII期にかけて有意の変化を認めなかった;男では,ほぼ全ての年齢層において,脳梗塞の割合が最も大きかったが,40~59歳では,脳出血とくも膜下出血を合わせた出血性脳卒中が脳梗塞とほぼ等しい割合を占めた。女では,40~59歳では,出血性脳卒中が脳梗塞の 2 倍以上の割合を占め,60歳代,70歳代では,出血性脳卒中と脳梗塞はほぼ等しい割合であった。脳梗塞の病型は,男女いずれの年齢層でも,穿通枝系梗塞の割合が脳梗塞全体の過半数を占めた。
    結論 八尾市における脳卒中入院患者の病型別割合は,1990年代から2000年代前半にかけて有意な変化は認められず,脳出血,穿通枝系梗塞,くも膜下出血という,高血圧性細動脈病変を基盤として発症するタイプの脳卒中が比較的多くを占めることが明らかとなった。したがって,脳卒中予防の観点からは,高血圧対策が依然として重要であると考えられた。また,壮年男性における脳卒中発症の増加の可能性が示されたことから,今後,背景要因の検討が必要である。
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