日本公衆衛生雑誌
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三重県における介護保険データを用いた健康余命の算定
大熊 和行松村 義晴福田 美和中山 治
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2006 年 53 巻 6 号 p. 437-447

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抄録

目的 健康余命の定義や推計方法に関する研究は数多く報告されているが,いずれの方法も算定基礎となるデータの収集・調査に多くの時間と労力を要する。そこで,①経年推移が比較的容易に把握できること,②市町村・保健所管内等の地域間比較が容易にできること,③基礎データが全国一律に入手しやすいことを考慮し,三重県における介護保険データを用いた健康余命の算定方法について検討した。
方法 介護保険法により全国的にほぼ一律の判定が行われている要介護認定者数(要支援者数+要介護者数)の被保険者数に対する割合(要介護認定率)を障害有病率とし,平均余命は Chiang 法により,健康余命は Sullivan 法により算定した。算定にあたっては,Microsoft Excel 関数を用いた演算表を作成した。また,あらかじめ,1995年および2000年の三重県内69市町村の平均寿命を Chiang 法により算定し,同年の市区町村別生命表と比較検討した。
結果 Chiang 法による平均寿命から市区町村別生命表による平均寿命を差し引き,これを市区町村別生命表による平均寿命で除して得られるパーセント値(「較差」)の絶対値が 5%未満となる市町村人口は,男女とも10,000人以上であれば十分であることが明らかとなった。また,健康余命算定に必要な基礎資料が揃った2001年~2003年における県全体での40歳平均余命は,男はいずれの年も40.1歳で変わらなかったが,女は2001年46.1歳,2002年46.2歳,2003年46.4歳とわずかではあるが延伸していた。一方,40歳健康余命は,男は38.1歳から37.7歳に,女は41.6歳から40.9歳に年々短くなる結果となり,現時点で得られる介護保険データでは,十数パーセントの誤差を含むものと考えられた。
結論 Sullivan 法の基礎データは,「生命表」と「性・年齢階級別の障害有病率」である。生命表は Chiang 法により作成し,障害有病率は介護保険法に基づく要介護認定率を用いることにより,Microsoft Excel 関数を用いた演算表で容易に健康余命を算定することができた。しかしながら,その算定条件は,男女それぞれの人口が10,000人以上の規模に限定されることに留意する必要がある。また,介護保険法が施行され 5 年以上が経過し,制度自体は定着したと考えられるが,現時点で得られる介護保険データでは,要介護認定が安定していないことによる誤差が大きく,経年比較は特に問題があると考えられた。2005年 4 月に改正介護保険法が施行され,予防重視型の制度に転換されたが,同制度の定着状況をみつつ,誤差の小さい算定方法に改善することが今後の研究課題である。

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© 2006 日本公衆衛生学会
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