日本公衆衛生雑誌
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原著
わが国における20世紀の脳血管疾患死亡率の変動要因と今後の動向
三輪 のり子中村 隆成瀬 優知大江 洋介大野 ゆう子
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2006 年 53 巻 7 号 p. 493-503

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抄録

目的 20世紀における脳血管疾患死亡率の変動要因を明らかにし,脳卒中対策の成果ならびに21世紀前半の脳血管疾患死亡数の動向を検討する。
方法 分析対象期間は,男女の年齢階級別の脳血管疾患死亡数と人口の把握が可能であった1920~2003年(1940~1946年を除く)とした。中村のベイズ型ポワソン Age-Period-Cohort モデルを用いて,男女別に,20~79歳(5 歳年齢階級別)の各年データから,脳血管疾患死亡率に対する影響の大きさ(効果)を推定した。さらに,得られた年齢・世代効果の推定値と,1995~2003年の時代効果の推定値についての直線回帰による2003年時点の値および 1 次・2 次関数に基づく時代効果の将来設定値を用いて,2050年までの脳血管疾患死亡数の推計を行った。
成績 脳血管疾患死亡率の変動に対して,年齢・時代・世代の 3 効果が認められ,それぞれ男女で似た傾向であった。3 効果の変動幅(レンジ)は,年齢,世代,時代効果の順に大きかった。年齢効果は20~24歳から年齢階級があがるにつれて上昇していた。時代効果は1970年頃から下降していた。世代効果は,1840~1890年代生まれで高く,1920~1970年代生まれで低くなっていた。ただし1940年代生まれ以降は,女性は下降,男性は漸増の後1960~1970年代生まれは一定の傾向であった。3 効果の推定値に基づく脳血管疾患死亡数の将来推計では,時代効果を一定に仮定すると,とくに男性は2025,2045年前後をピークとする 2 峰性を示し,推計期間を通して増加傾向となる。これに対して時代効果の下降がつづくと仮定すると,死亡数の推移は男女とも現在と同程度もしくは減少していくことが示された。
結論 20世紀における脳卒中対策や生活環境の改善の成果は,社会全体としては1970年頃より表れ,その影響を受けた世代は脳卒中の罹患や重症化を予防する特性を備えていた。にもかかわらず21世紀前半は,第一次・二次ベビーブーマーが脳血管疾患死亡率の高い年齢層に達すること,男性の世代効果が上昇基調にあることから,脳血管疾患死亡数は基本的に増加傾向となる。今後は,過去30年における時代効果の下降が続くような集団戦略と,男性の現若齢層(20~30歳代)に対する高リスク戦略の両面について検討を行う必要がある。

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© 2006 日本公衆衛生学会
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