日本公衆衛生雑誌
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わが国における社会福祉・介護の法的権利保障の現状 1960∼2005年の判決分析から
松澤 明美田宮 菜奈子脇野 幸太郎
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2009 年 56 巻 6 号 p. 411-417

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抄録

目的 わが国の社会福祉・介護の法的権利保障の現状を把握し,今後の介護の在り方について検討することを目的として,判決上,介護を受ける権利が認められてきたかを明らかにする。
方法 「判例体系 CD-ROM」および「判例時報」等を使用し,1960年から2005年の判決より生存権に関する判決を抽出した。生存権に関する判決かどうかは判決文中に「生存権」または「憲法25条」というキーワードを含んでいるかにより判断した。そして判決内容を確認の上,その中から介護を受ける権利に関する判決を抽出した。各判決文の全文を詳細に読み,個々の判決において生存権の一部として具体的な権利が認められているか,さらに介護を受ける権利が認められているかを憲法25条に関する裁判所の解釈,各事案についての検討の有無と程度により判断した。この過程は筆頭著者が実施し,介護を受ける権利が認められているかの判断は法律学を専門とする共同著者による追試を実施した。
結果 生存権に関する判決は210判決であり,そのうち介護を受ける権利に関する判決は13判決(6.2%)であった。時系列的にみると,介護を受ける権利に関する判決は,1992年までは 3 判決(2.4%),それ以降では10判決(12.0%)あった。そして生存権について検討し,具体的な権利として認めていたと考えられた判決は,23判決(11.0%)であり,残る187判決(89.0%)は具体的に検討していなかった。その中で介護を受ける権利に関しては,1992年までは具体的に検討している判決はなかったが,それ以降では 4 判決(40.0%)が介護を受ける権利を認めていたと考えられた。また判決の結果としても原告の主たる請求を認容していた。さらに,介護を受ける権利に関する13判決(6 事例)のうち,判決文を入手できた12判決(5 事例)の事案の内容は,将来の介護不安,養護老人ホームの雑居制,ホームヘルパー派遣基準の曖昧さと低廉性,家族介護を前提としたサービス供給,重度心身障害者の自己決定,自立等の問題であった。
結論 介護を受ける権利は判決上,権利保障は難しいのが現状である。しかし,近年の一部の判決にみられるように,具体的な生存権を認める方向へ変化してきていることが明らかになった。措置から契約に変化した介護保険制度下においてこそ,高齢者・障害者の介護を受ける権利の保障が重要である。そのため,更なる介護関連判決の検証とともに,実態に基づく介護の質の保障システムの構築が課題と考えられる。

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© 2009 日本公衆衛生学会
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