日本公衆衛生雑誌
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56 巻, 6 号
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特別論文
原著
  • 谷本 芳美, 渡辺 美鈴, 河野 令, 広田 千賀, 高崎 恭輔, 河野 公一
    2009 年 56 巻 6 号 p. 383-390
    発行日: 2009年
    公開日: 2014/06/13
    ジャーナル フリー
    目的 高齢期における介護予防のための口腔機能の維持・向上を目的に,地域高齢者における咀嚼能力の客観的な評価方法として色変わりチューインガム(以下,色変わりガムとする)が有用であるか検討する。
    方法 2007年 4 月~5 月に T 市に在住する65歳以上の高齢者210人(男性69人,女性141人)を対象に色変わりガムを用いた咀嚼能力と残存歯数および咬合力の測定を行い,同時に自記式質問紙調査を用いて咀嚼能力の主観的評価を行った。調査実施前に,5 人の高齢者について色変わりガムの測定方法の精度を検討した。測定は「普段の食事をするようにガムをかんでください」と指示し,2 分間咀嚼させた後,色彩色差計を用いて色変わりガムの「赤み」を示す咀嚼能力 a∗値(以下,a∗値とする)を測定した。質問紙項目は①食物が普通にかめるか②かたい食物がかめるか③まぐろのさしみ,かまぼこ,らっきょう,ビフテキ,ピーナッツの咀嚼の可・不可について調べた。解析は a∗値と残存歯数,咬合力および質問紙調査との関連について行った。
    結果 対象者 5 人の a∗値の変動係数は2.15~3.75%で,測定方法は高い精度を示した。地域高齢者の色変わりガムの平均 a∗値は男性26.0,女性22.8であった。年齢別では,男性は全ての年齢群で有意な差を認めず,加齢に伴う変化は示さなかった。女性は80歳までは年齢による差を示さなかったが,80歳以上に有意な低下を示した。性別では,どの年齢群においても有意な差を認めなかった。男女とも a∗値は残存歯数および咬合力と正の相関関係を認めた。質問紙調査では,全ての項目で咀嚼可群の方が有意に a∗値が高かった。また,残存歯数が20歯未満の者に限っても咀嚼難易度の低い「まぐろのさしみ」と「ビフテキ」を除く全ての項目において咀嚼可群が有意に a∗値が高く,色変わりガムと主観的な質問紙調査との関連を認めた。
    結論 色変わりガムの測定方法は簡便で,測定精度が高いことが認められた。また,色変わりガムは残存歯数や咬合力および主観的咀嚼能力評価と関連することを認めたことから,地域高齢者の健康づくりにおける咀嚼能力の客観的評価方法として有用であると考える。
  • 塩見 美抄, 岡本 玲子, 岩本 里織
    2009 年 56 巻 6 号 p. 391-401
    発行日: 2009年
    公開日: 2014/06/13
    ジャーナル フリー
    目的 保健師の事業・社会資源の創出に関するコンピテンシーを評価する尺度の開発に向け,先行研究において尺度項目を精選し,尺度原案を作成した。本研究では,この尺度原案の信頼性,妥当性を検討することを目的とする。
    方法 尺度原案について,郵送による無記名自記式の質問紙調査を行った。調査対象は,無作為抽出した全国保健所 4 分の 1,市町村保健センター20分の 1 に常勤する保健師全員であった。調査内容は,尺度原案と,事業・社会資源の創出能力に関する外部変数,経験年数,役職などの属性,学習会参加の有無であった。
     尺度の表面妥当性の検討のため,尺度項目ごとに通過率を算出した。項目分析で尺度項目を精選した後,因子分析を行い,構成概念妥当性を検討した。信頼性の検討には,クロンバック α 係数,折半法を用いた。基準関連妥当性の検討には,外部基準との相関係数を算出した。また,尺度の活用可能性を検討するため,尺度得点と回答者の属性や学習会参加の有無との関連をみた。
    結果 送付施設数250中184(73.6%)から返送があり,返送施設の対象数1,799人中回答者は1,261人(70.1%),うち有効回答は1,112人(61.8%)であった。
     各尺度項目の平均値は,1.97から3.44の範囲であった。
     尺度項目ごとの通過率は,いずれの項目も96.0%以上であり,表面妥当性が認められた。項目分析によって,24項目中 6 項目を削除した。因子分析によりさらに 2 項目を削除し,3 因子16項目で最適解を得た。各因子名は「創出の必要性の把握」,「創出の推進と具現化」,「創出に向けた協同」とした。クロンバック α 係数や,折半法による信頼係数は,0.76から0.95の範囲であり,信頼性が認められた。外部変数との相関係数は,0.50から0.69の範囲であり,外部変数と尺度得点との相関が認められた。回答者の経験年数,所属機関,役職,学習会参加の有無による尺度得点の差を検定した結果,いずれにおいても有意確率 1%で有意な差が認められた。
    結論 保健師の事業・社会資源の創出に関するコンピテンシーを測る尺度原案を作成し,その信頼性・妥当性を検討した結果,3 因子16項目から成る尺度が得られ,各因子および尺度全体において,信頼性・妥当性が確認された。
     尺度得点には,経験年数,所属機関,役職,学習会参加との関連が認められ,これは既存文献の示す知見と同様であった。
     本研究で得られた尺度は今後,保健師の事業・社会資源の創出能力の自己評価に活用可能である。
資料
  • 成瀬 昂, 有本 梓, 渡井 いずみ, 村嶋 幸代
    2009 年 56 巻 6 号 p. 402-410
    発行日: 2009年
    公開日: 2014/06/13
    ジャーナル フリー
    目的 少子化の進む日本では,健やか親子21などの政策により父親の育児参加が推奨されている。父親の育児参加に関する研究では仕事の影響を考慮する必要があるが,仕事と家庭における役割の関係性(スピルオーバー)が父親の育児参加にどのように影響するのかは,明確にされていない。本研究では,父親の育児参加を育児支援行動と定義して,その関連要因を検討し,父親の育児支援行動と役割間のポジティブスピルオーバーとの関連を明らかにすることを目的とした。
    方法 A 市内の公立保育園17園と私立保育園14園に通う,1,2 歳児クラスの父親880人を対象に,無記名自記式質問紙による留め置き・郵送調査を行った。父親・家庭・多重役割に関する変数を独立変数とし,「母親への情緒的支援行動」,「育児家事行動」を従属変数とする階層的重回帰分析を行った。父親に関する要因,母親の職業を独立変数として投入した後(モデル 1),さらに仕事と家庭の両役割間のポジティブスピルオーバーを追加投入(モデル 2)した。
    結果 189人の有効回答を得た(有効回答率21.4%)。重回帰分析の結果,母親への情緒的支援行動の実施にはポジティブスピルオーバーの高さ,平等主義的性役割態度の高さが有意に関連していた。育児家事行動の実施にはポジティブスピルオーバーの高さ,母親が会社員・公務員であることが有意に関連していた。
    結論 父親の育児支援行動は,父親の持つ特性や経験などの背景要因よりも,仕事と家庭の両立におけるポジティブスピルオーバーとの関連性が強かった。また,ポジティブスピルオーバーが高いほど母親への情緒的支援行動,育児家事行動を行っていた。父親の育児支援行動を促進するための働きかけや政策を検討するためには,父親が仕事と家庭をどのように両立しているか,それによる影響を本人がどう捉えているかを考慮する必要性が示された。
  • 松澤 明美, 田宮 菜奈子, 脇野 幸太郎
    2009 年 56 巻 6 号 p. 411-417
    発行日: 2009年
    公開日: 2014/06/13
    ジャーナル フリー
    目的 わが国の社会福祉・介護の法的権利保障の現状を把握し,今後の介護の在り方について検討することを目的として,判決上,介護を受ける権利が認められてきたかを明らかにする。
    方法 「判例体系 CD-ROM」および「判例時報」等を使用し,1960年から2005年の判決より生存権に関する判決を抽出した。生存権に関する判決かどうかは判決文中に「生存権」または「憲法25条」というキーワードを含んでいるかにより判断した。そして判決内容を確認の上,その中から介護を受ける権利に関する判決を抽出した。各判決文の全文を詳細に読み,個々の判決において生存権の一部として具体的な権利が認められているか,さらに介護を受ける権利が認められているかを憲法25条に関する裁判所の解釈,各事案についての検討の有無と程度により判断した。この過程は筆頭著者が実施し,介護を受ける権利が認められているかの判断は法律学を専門とする共同著者による追試を実施した。
    結果 生存権に関する判決は210判決であり,そのうち介護を受ける権利に関する判決は13判決(6.2%)であった。時系列的にみると,介護を受ける権利に関する判決は,1992年までは 3 判決(2.4%),それ以降では10判決(12.0%)あった。そして生存権について検討し,具体的な権利として認めていたと考えられた判決は,23判決(11.0%)であり,残る187判決(89.0%)は具体的に検討していなかった。その中で介護を受ける権利に関しては,1992年までは具体的に検討している判決はなかったが,それ以降では 4 判決(40.0%)が介護を受ける権利を認めていたと考えられた。また判決の結果としても原告の主たる請求を認容していた。さらに,介護を受ける権利に関する13判決(6 事例)のうち,判決文を入手できた12判決(5 事例)の事案の内容は,将来の介護不安,養護老人ホームの雑居制,ホームヘルパー派遣基準の曖昧さと低廉性,家族介護を前提としたサービス供給,重度心身障害者の自己決定,自立等の問題であった。
    結論 介護を受ける権利は判決上,権利保障は難しいのが現状である。しかし,近年の一部の判決にみられるように,具体的な生存権を認める方向へ変化してきていることが明らかになった。措置から契約に変化した介護保険制度下においてこそ,高齢者・障害者の介護を受ける権利の保障が重要である。そのため,更なる介護関連判決の検証とともに,実態に基づく介護の質の保障システムの構築が課題と考えられる。
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