日本公衆衛生雑誌
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原著
在宅介護継続配偶者介護者における介護経験と精神的健康状態との因果関係の性差の検討
杉浦 圭子伊藤 美樹子九津見 雅美三上 洋
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2010 年 57 巻 1 号 p. 3-16

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抄録

目的 配偶者の介護において,要介護者の心身の状況,世帯構成,経済状況,副介護者の存在などの介護者をとりまく状況と,介護保険サービス利用回数,介護者の対処方略などの介護経験の経年的な変化と介護者の精神的健康状態との因果関係における性別の特徴を明らかにすること。
方法 2003年に大阪府東大阪市で要介護認定等を受けているものから,5,000人を層別無作為抽出し,要介護者とその家族を対象に郵送による無記名自記式質問紙調査を行った(初回調査)。回答は3,138件から得られ,そのうち568組が配偶者介護を行っていた。初回調査後,死亡•転居を除く3,934件に対し,2005年10月に同様の質問紙を送付した(継続調査)。2,365件から回答が得られ,配偶者が介護を行っていたのは326組であった。これを初回調査の対象者とリンケージすると夫介護者(妻を介護する夫)85人,妻介護者(夫を介護する妻)135人の計220組の要介護者と介護者が追跡可能であった。調査項目は,要介護者•介護者の基本属性,介護者をとりまく状況,介護保険サービス利用状況,対処方略,介護者のうつ的症状,介護肯定感である。分析は交差遅れ効果モデルを用いた共分散構造分析による多母集団同時分析を行った。
成績 要介護者の心身の状況の経年変化に有意差はみられなかった。介護者をとりまく状況は,夫介護者の方が妻介護者よりも ADL 介護量,副介護者保有率を増加させており,妻介護者では介護保険サービスの利用量が拡大していた。介護ストレスへの対処方略の採用には性差がみられ,夫介護者では介護役割の積極的受容型が,妻介護者では問題解決思考型が優先されていた。また,妻介護者にのみ介護肯定感の低下がみられた。交差遅れモデルでは,夫介護者においては ADL 介護量が多いことはうつ的症状を軽減し,問題解決志向型対処の積極的な採用はうつ的症状を悪化させていた。一方,介護肯定感は情緒的支援活用型,介護役割の積極的受容型対処の採用を促進していた。妻介護者についてはうつ的症状が気分転換型対処の採用を後退させ,また介護肯定感が介護におけるペース配分型,介護役割の積極的受容型対処の採用を促進していた。
結論 今回の研究で観察された 2 年間の介護経験において,夫介護者は ADL 介護量や副介護者などの身近なサポートを増加させ,介護役割に適応する傾向がみられた。ゆえに ADL 介護量の増えない,もしくは身近なサポートが乏しい夫介護者は精神的健康の悪化を招く可能性があり,継続的モニタリングが必要である。妻介護者は介護保険サービスの利用量を増加させていたが精神的健康とは関連がなく,かつ介護肯定感の低下がみられた。

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© 2010 日本公衆衛生学会
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