日本公衆衛生雑誌
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57 巻 , 1 号
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原著
  • 杉浦 圭子, 伊藤 美樹子, 九津見 雅美, 三上 洋
    2010 年 57 巻 1 号 p. 3-16
    発行日: 2010年
    公開日: 2014/06/12
    ジャーナル フリー
    目的 配偶者の介護において,要介護者の心身の状況,世帯構成,経済状況,副介護者の存在などの介護者をとりまく状況と,介護保険サービス利用回数,介護者の対処方略などの介護経験の経年的な変化と介護者の精神的健康状態との因果関係における性別の特徴を明らかにすること。
    方法 2003年に大阪府東大阪市で要介護認定等を受けているものから,5,000人を層別無作為抽出し,要介護者とその家族を対象に郵送による無記名自記式質問紙調査を行った(初回調査)。回答は3,138件から得られ,そのうち568組が配偶者介護を行っていた。初回調査後,死亡•転居を除く3,934件に対し,2005年10月に同様の質問紙を送付した(継続調査)。2,365件から回答が得られ,配偶者が介護を行っていたのは326組であった。これを初回調査の対象者とリンケージすると夫介護者(妻を介護する夫)85人,妻介護者(夫を介護する妻)135人の計220組の要介護者と介護者が追跡可能であった。調査項目は,要介護者•介護者の基本属性,介護者をとりまく状況,介護保険サービス利用状況,対処方略,介護者のうつ的症状,介護肯定感である。分析は交差遅れ効果モデルを用いた共分散構造分析による多母集団同時分析を行った。
    成績 要介護者の心身の状況の経年変化に有意差はみられなかった。介護者をとりまく状況は,夫介護者の方が妻介護者よりも ADL 介護量,副介護者保有率を増加させており,妻介護者では介護保険サービスの利用量が拡大していた。介護ストレスへの対処方略の採用には性差がみられ,夫介護者では介護役割の積極的受容型が,妻介護者では問題解決思考型が優先されていた。また,妻介護者にのみ介護肯定感の低下がみられた。交差遅れモデルでは,夫介護者においては ADL 介護量が多いことはうつ的症状を軽減し,問題解決志向型対処の積極的な採用はうつ的症状を悪化させていた。一方,介護肯定感は情緒的支援活用型,介護役割の積極的受容型対処の採用を促進していた。妻介護者についてはうつ的症状が気分転換型対処の採用を後退させ,また介護肯定感が介護におけるペース配分型,介護役割の積極的受容型対処の採用を促進していた。
    結論 今回の研究で観察された 2 年間の介護経験において,夫介護者は ADL 介護量や副介護者などの身近なサポートを増加させ,介護役割に適応する傾向がみられた。ゆえに ADL 介護量の増えない,もしくは身近なサポートが乏しい夫介護者は精神的健康の悪化を招く可能性があり,継続的モニタリングが必要である。妻介護者は介護保険サービスの利用量を増加させていたが精神的健康とは関連がなく,かつ介護肯定感の低下がみられた。
  • 高橋 邦彦, 飛田 英祐, 山岡 和枝, 丹後 俊郎
    2010 年 57 巻 1 号 p. 17-26
    発行日: 2010年
    公開日: 2014/06/12
    ジャーナル フリー
    目的 古くから医療費の地域格差の問題に関するさまざまな議論が行われている。わが国において市町村ごとの医療費の格差を論じる際,国民健康保険における地域差指数という指標が用いられる。しかしこの指標は観測度数と期待度数の比の形の指標であり,地域の死亡リスクを表す際に用いられる標準化死亡比と同様,人口の少ない地域ではその変動が大きく,不安定な指標となる。そこでその問題点を解決することを目的に,死亡リスクでの議論と同様,統計学的な視点からベイズ推定を用いた指標の検討を行う。
    方法 本研究では医療費に対数正規分布を仮定し,その上で従来の地域差指数の統計学的な位置づけを明らかにし,さらにそのフルベイズ推定量からベイズ地域差指数を導出した。実際に公開されている各市町村の年次データを用いて従来の地域差指数の値と提案するベイズ地域差指数の相対的な比較を行った。
    結果 医療費の分布として対数正規分布を仮定すれば,従来の地域差指数はその分布の中央値に基づく水準を表す指標の推定値であるという意味づけが可能となった。実データによる数値計算では,特に人口の少ない地域での従来の地域差指数が不安定であることがわかった。そこでベイズ推定を行うことで,その不安定さを解決できることが観察された。
    結論 提案するベイズ推定を行うことで全体として平滑化された安定した医療費水準の推定を行うことができた。この指標を用いることで,より適切な地域格差の議論を行うことができるようになると考えられる。
  • 根岸 薫, 麻原 きよみ, 柳井 晴夫
    2010 年 57 巻 1 号 p. 27-38
    発行日: 2010年
    公開日: 2014/06/12
    ジャーナル フリー
    目的 「行政保健師の職業的アイデンティティ尺度」を開発すると共にそれに関連する要因を明らかにし,効果的な保健師活動のための基礎資料とする。
    方法 行政保健師の職業的アイデンティティを測定する尺度を作成し,関東地域に勤務する行政保健師に対する質問紙調査を実施した。回答の得られた739人を分析し,尺度の信頼性と妥当性,および関連要因を検討した。
    結果 1) 7 つの下位概念と52項目の暫定版行政保健師の職業的アイデンティティ尺度(PISP)を作成した。この尺度の項目分析と因子分析(プロマックス斜交回転法)の結果,PISP は,《保健師としての自信》,《職業と自己の生活の同一化》,《他者からの評価と自己尊重》,《職業への適応と確信》,《職業と人生の一体化》の 5 因子構造の37項目からなる尺度となった。2) PISP の合計得点と「自我同一性尺度」,「自尊感情尺度」とは有意な正の相関がみられた。3) PISP と「看護職の職業的アイデンティティ尺度」の合計得点との関連では,有意な正の相関がみられた。4) PISP 全体の α 係数は0.96と高かった。5) PISP の合計得点と年齢および経験年数の関連では共に有意な正の相関がみられた。6) PISP の合計得点との関連では,配偶者の有群,同居者の有群,夫•子供と同居している群,役職の有群の得点が無群と比べ有意に高かった。7) PISP および下位尺度の合計得点を従属変数とし,前提要因と関連要因を独立変数とした重回帰分析の結果,PISP の合計得点に有意に関連していたのは,信念をもっている,モチベーションをもっている,年齢が高い,保健師としての役割を担っているであった。
    結論 PISP は信頼性,妥当性が検証され,適用可能な尺度と考えられた。また,保健師の職業的アイデンティティ向上のためには,信念やモチベーションを高めたり,専門性が発揮できるように組織体制を整えることの必要性が示唆された。
短報
  • 岩澤 聡子, 道川 武紘, 中野 真規子, 西脇 祐司, 坪井 樹, 田中 茂, 上村 隆元, Ai MILOJEVIC, 中島 宏, 武林 ...
    2010 年 57 巻 1 号 p. 39-43
    発行日: 2010年
    公開日: 2014/06/12
    ジャーナル フリー
    目的 2000年 6 月に三宅島雄山が噴火し,二酸化硫黄(SO2)を主とする火山ガス放出のため同年 9 月に全住民に島外避難命令が出された。火山ガス放出が続く中,火山ガスに関する健康リスクコミュニケーションが実施され,2005年 2 月に避難命令は解除された。本研究では,帰島後 1 年 9 か月経過した時点における,SO2 濃度と小児の呼吸器影響の関連について,2006年 2 月から11月の 9 か月間の変化を検討した。
    方法 健診対象者は2006年11月時点で,三宅島に住民票登録のある19歳未満の住民を対象とした。そのうち,受診者は,141人(受診率50.4%)で,33人は高感受性者(気管支喘息などの気道過敏性のある呼吸器系疾患を持つ人あるいはその既往のあり,二酸化硫黄に対し高い感受性である人)と判定された。
     健康影響は,米国胸部疾患学会の標準化質問票に準拠した日本語版の自記式質問票により,呼吸器に関する自覚症状調査,生活習慣,現病歴,既往歴等の情報を収集した。努力性肺活量検査は,練習の後,1 被験者あたり 3 回本番の測定を実施した。
     環境濃度は,既存の地区名を一義的な括りとし,当該地区の固定観測点での SO2 モニタリングデータをもとに,避難指示解除より健診までの22か月間のデータについて,その平均値により居住地域を低濃度地区(Area L),比較的曝露濃度の高い 3 地域(H-1, H-2, H-3)と定義し,SO2 濃度(ppm)はそれぞれ0.019, 0.026, 0.032, 0.045であった。
    結果 自覚症状では,「のど」,「目」,「皮膚」の刺激や痛みの増加が,Area L と比較すると,H-3 で有意に訴え率が高かった。呼吸機能検査では,2006年 2 月と2006年11月のデータの比較において,高感受性者では%FVC,%FEV1 で有意に低下(P=0.047, 0.027)していたが,普通感受性者では低下は認めなかった。
    結論 高感受性者では呼吸機能発達への影響の可能性も考えられ,注目して追跡観察していくべきである。
資料
  • 星子 美智子, 原 邦夫, 石竹 達也
    2010 年 57 巻 1 号 p. 44-49
    発行日: 2010年
    公開日: 2014/06/12
    ジャーナル フリー
    目的 「中核市」移行と新設保健所に対する住民の期待と現状を明らかにすることで,今後の市行政や保健所のあり方について提言することを目的とした。
    方法 インターネットによる久留米市への住民アンケート調査を「中核市」移行前の2008年 3 月と移行後 6 か月が経過した2008年10月に実施した。「中核市」の認知度および「中核市」に移行する行政や新設される保健所への期待度に関する質問を行った。
    結果 「中核市」の認知度は,1 回目アンケート調査では62.6%,2 回目アンケート調査では78.9%と有意に上昇していた(P<0.001)。「中核市」への期待は,1 回目•2 回目の調査とも「市の活性化」が最も高値であった。しかし,「中核市」となり実感したことは,2 回目の調査結果より「特に無い」が81.2%と高値であり,「市の活性化」は5.5%と低値であった。中核市となり新設される保健所への期待は,1 回目•2 回目ともに「健康づくり•各種がん検診•予防接種」が最も多く約30%を占めた。しかし,実際の保健所利用状況は,2 回目の調査結果より「特に何もなし」が83.4%と高値であった。久留米市保健所が平成19年度から開催している「健康づくり推進委員」制度についての認知度は6.5%と低値であった。さらに平成21年度から導入される「地区担当制の保健活動」制度に関しては,「賛成」52.6%,「反対」3.0%,「どちらでもない」44.3%であった。
    結論 住民の「保健所」に対する期待は大きいものの,保健所が提供している健康づくり活動が十分に活用されていないことがわかった。今後は平成21年度から始まった「地区担当制の保健活動」の認知度を上げ,個人の健康ニーズに合わせた支援体制の充実が望まれる。
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