日本公衆衛生雑誌
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首都圏公立中学校における精神疾患理解教育の取り組みに関する調査研究
松田 修
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2010 年 57 巻 7 号 p. 571-576

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抄録

目的 本研究の目的は,首都圏公立中学校における精神疾患理解教育の実施状況と課題を明らかにし,学校教育における精神疾患理解教育の今後の指針を得ることである。
方法 本研究は,2008年11月~2009年 3 月にかけて首都圏(東京都,埼玉県,神奈川県)の47市区町村の公立中学校(507校)に対して実施された「公立中学校生徒の精神保健の現状と心の病気を学ぶ授業に関する調査」の中から,精神疾患理解教育の実施状況と課題に関する質問項目のデータを分析した結果である。このデータには,(1)精神疾患に関する授業の実施状況,(2)授業実施の必要性,(3)授業実施に関する教員の意見などに関する回答が含まれた。調査は無記名質問紙法によって実施された。
結果 回収率は32.1%で163校から回答を得た。心の病気を学ぶ授業の実施状況については,過去 3 年以内に実施経験のある学校は全体の 4 割に満たなかった。しかしその一方で,「必要」と「どちらかといえば必要」と回答した回答者の割合は,全体の 8 割であった。この回答の主な理由は,「生徒の自己理解,自己成長を促し,今後の生徒の精神保健の向上に役立つから」,「正しい知識があることで,早期発見,早期受診,早期治療に役立つから」,「患者理解や共生に役立つから」であった。一方,必要ではないとする意見の教員は,その理由として「一斉授業になじみにくい」,「授業時間が確保できない」,「他に優先して指導すべき内容がある」と回答した。教員の 9 割が心の病気を教えるためのサポート体制が十分ではないと回答し,適切な指導ができるかどうか不安であると回答した。
結論 回答者の大部分が,精神疾患理解教育の必要性を認めつつも,実際の授業実践に至っていないのが現状のようだ。教員の教材研究や授業実践を支援する取り組みが必要かもしれない。

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© 2010 日本公衆衛生学会
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