日本公衆衛生雑誌
Online ISSN : 2187-8986
Print ISSN : 0546-1766
ISSN-L : 0546-1766
57 巻, 7 号
選択された号の論文の7件中1~7を表示しています
原著
  • 星 淑玲, 近藤 正英, 大久保 一郎
    2010 年 57 巻 7 号 p. 505-513
    発行日: 2010年
    公開日: 2014/06/12
    ジャーナル フリー
    目的 近年,高齢者に対する肺炎球菌ワクチンの公費助成接種事業を実施する自治体が増加している。本研究は,実施経験を持つ全自治体を対象に調査を行い,1 接種あたりの公費助成額•自己負担額および特定期間の接種率などについて明らかにする。
    方法 2007年までに高齢者を対象に肺炎球菌ワクチンの公費助成接種事業の実施経験を有する63自治体に調査票を郵送した。1 接種あたりの公費助成額•自己負担額の年度別平均値および特定期間の接種率の平均値の年次推移は分散分析を用いて検討した。その後の比較は多重比較の問題を考慮して行った。なお,有効回答数が 2 以下の場合は分析から除外した。
    結果 2001~2007年度の年度別実施自治体数は,1, 2, 18, 18, 24, 41, 56で,延べ実施年数は160年あった。年度別公費助成額(回答率93.1%, 149/160)の平均値は2003~2007年年度順で3,233円,3,225円,3,168円,3,158円,3,351円であり,年次推移に有意差が認められなかった(F=0.195, P=0.964)。自己負担額(回答率68.1%, 109/160)の平均値は2003~2007年年度順で3,899円,3,928円,3,979円,3,891円,3,672円であり,年次推移に有意差は認められなかった(F=0.271, P=0.949)。実施年数ごと(0~1 年,1~2 年,2~3 年,3~4 年,4~5 年)の年間接種率(回答率68.1%, 109/160)の平均値はそれぞれ17.7%, 5.4%, 3.7%, 3.4%, 4.6%,であり,0~1 年以外のいずれの年のも 0~1 年より有意に接種率が低下していた(Dunnett T3 法,P<0.001)。実施初年度接種率(回答率80.9%, 51/63)の平均は,2003年度が32.1%, 2005年度が8.5%, 2006年度が13.6%, 2007年度が16.5%であり,2003年度は2005年度と2006年度の間にそれぞれ有意差が認められた(Tukey's HSD 法,P 値はそれぞれ0.030と0.015である)。
    結論 高齢者に対する肺炎球菌ワクチンの公費助成接種の 1 接種あたりの公費助成額•自己負担額および特定期間の接種率の実態が結果に示したように初めて明らかになった。今後の予防接種や感染症行政等の評価に有用な情報が得られた。
  • 岡本 秀明
    2010 年 57 巻 7 号 p. 514-525
    発行日: 2010年
    公開日: 2014/06/12
    ジャーナル フリー
    目的 高齢者の社会活動全般の主観的効果の把握を主眼とした高齢期の過ごし方の満足度を把握する「社会活動に関連する過ごし方満足度尺度」を作成し,その信頼性と妥当性を検討することを研究目的とした。その際,高齢者がおもに社会活動により得られるいくつかの主要な要素に対する具体的な効果を把握するアプローチをとった。
    方法 アイテムプールを検討して設定した尺度構成項目案16項目に対し,相関分析や探索的因子分析などにより項目選択を行った。尺度の妥当性は,検証的因子分析,基準関連妥当性(併存的妥当性),下位尺度と活動の有無との関連性により検討した。尺度の信頼性は,Cronbach の α 係数により検討した。分析対象者は,千葉県市川市の高齢者(65~84歳)755人であった。
    結果 探索的因子分析の結果,「学習に関する満足度」,「他者•社会への貢献に関する満足度」,「健康•体力に関する満足度」,「友人に関する満足度」の 4 因子14項目という構造が得られた。この尺度の構造を検証的因子分析により検討した結果,尺度の適合度を示す指標は,GFI=0.943, AGFI=0.915, RMSEA=0.068という数値を示した。基準関連妥当性(併存的妥当性)を検討した結果,尺度全体および下位尺度の得点は,日頃の活動満足度,日頃の生活における充実感,日頃の過ごし方の満足感,生活満足度,抑うつのすべての変数と有意な関連を示していた。下位尺度と活動の有無との関連を検討した結果,学習活動の有無と「学習に関する満足度」得点,ボランティア活動の有無と「他者•社会への貢献に関する満足度」得点,運動の有無と「健康•体力に関する満足度」得点,趣味の会などの仲間内の活動の有無と「友人に関する満足度」得点との比較のすべてにおいて有意な正の関連がみられた。尺度の信頼性を Cronbach の α 係数により検討した結果,尺度全体が0.919,下位尺度が0.814~0.887であった。
    結論 本研究で作成した高齢者向けの「社会活動に関連する過ごし方満足度尺度」は,「学習に関する満足度」,「他者•社会への貢献に関する満足度」,「健康•体力に関する満足度」,「友人に関する満足度」の 4 因子14項目により構成され,信頼性と妥当性を有することが確認された。
  • 原田 和宏, 島田 裕之, Patricia SAWYER, 浅川 康吉, 二瓶 健司, 金谷 さとみ, 古名 丈人, 石崎 達郎, 安村 ...
    2010 年 57 巻 7 号 p. 526-537
    発行日: 2010年
    公開日: 2014/06/12
    ジャーナル フリー
    目的 高齢者の活動能力の低下は日頃の行動範囲の狭小化に続いて起こるとされ,国内外で生活空間の評価とその関連要因の検討が始まっている。生活空間は「日常の活動で一定期間に移動した範囲」と定義され,評価には Life-space assessment(LSA)の点数化評価が用いられることが多いが,日本人ではデータ分布や尺度としての特性は明らかにされていない。本研究は介護保険制度の予防事業に参加した地域高齢者を対象に,日本語版 LSA により最大到達範囲を把握し,移動の頻度や自立状況を積算する評価法について基準関連妥当性および構成概念妥当性を検討することが目的である。
    方法 対象は2007年11月から2008年 2 月の間に介護予防事業もしくは介護予防サービスを利用した地域高齢者で認知機能低下がない者2,459人であった。日本語版 LSA は原著者への翻訳許可,順•逆翻訳の手続きを経て作成した。分析は介護保険制度上の特定高齢者,要支援 1 及び 2 で歩行状態が自立とみなせる者2,147人を選定して行った(男性29.5%,平均年齢79.4歳)。生活空間に関しては,過去 4 週間の最大到達範囲を求めた。次に,LSA の点数化アルゴリズムに従って算出した 0~120点の LSA 得点について記述統計(平均値,標準偏差,中央値,最小値,最大値,歪度,尖度),総合的移動能力尺度を外的基準とした基準関連妥当性,及び年齢,性別,Timed up and go test (TUG), instrumental activities of daily living (IADL),抑うつ気分,健康度自己評価との関係性に基づく構成概念妥当性を検討した。
    結果 本研究では最大到達範囲を生活空間レベル 5「町外」とする者の割合は64.1%であった。「生活空間の制限あり」とみなしたレベル 3「自宅近隣」以下の存在割合は12.6%であった。LSA 得点の平均値は51.4点,標準偏差は25.2点で散布度が大きい特徴を示し,分布の形状は正規分布から極度には逸脱していなかった。総合的移動能力尺度との関係は,地域での移動能力が高い者ほど LSA 得点が高くなる傾向を示し,両者の相関は0.539であった(P<0.01)。関連要因との相関では,年齢が−0.296, TUGが−0.387, IADLが0.533と先行研究の知見と同様の関係性が得られ,いずれも 1%以下の危険率で有意であった。要因別にみた平均値についても,理論的に整合する LSA 得点への影響を認め,性別では男性が54.3点で女性の50.2点より高く,抑うつ気分では「いつも感じる者」は43.1点で「それ以外の者」の51.7点より低く,健康度自己評価では「健康でない者」は47.7点で「健康である者」の53.2点より低く,それらの差は有意であった(P<0.01)。
    結論 本研究では,介護保険制度で予防的支援を必要とする地域高齢者を対象とした生活空間の評価について,LSA による最大到達範囲は測定値の範囲が小さく分布が偏るが,LSA 得点は幅広い散布度を有し個人差を反映する特徴をもつと共に,基準関連(併存的)妥当性と構成概念妥当性を支持する傍証が得られた。LSA 得点は介護予防を必要とする日本人高齢者に対する生活空間の測定尺度として有用であることが示唆された。
  • 大森(松田) 芳, 寳澤 篤, 曽根 稔雅, 小泉(正宗) 弥生, 中谷 直樹, 栗山 進一, 鈴木 修治, 粟田 主一, 辻 一郎
    2010 年 57 巻 7 号 p. 538-549
    発行日: 2010年
    公開日: 2014/06/12
    ジャーナル フリー
    目的 地域高齢者におけるうつ状態の程度とその後の介護保険の要支援•要介護認定リスクとの関連をコホート研究により検討すること,さらにその関連に男女差があるかを検討すること。
    方法 仙台市宮城野区鶴ヶ谷地区の70歳以上住民全員(2,925人)に対し,高齢者総合機能評価「寝たきり予防健診」を平成15年に行った。受診者(958人)のうち,研究利用への同意が得られ介護保険認定非該当であった者841人を解析対象とした。うつ状態は30項目の Geriatric Depression Scale (GDS)で評価した。抗うつ薬内服または GDS14点以上(中等度~重度うつ群),10-13点(軽度うつ群),9 点以下(健常)の 3 群に分類し要支援•要介護認定リスクを Cox 比例ハザードモデルにより算出した。
    結果 4 年間の追跡調査で151人が要支援•要介護認定を受け,46人が死亡した。うつ状態は特に男性において要支援•要介護認定リスクと関連していた。男性では,健常群と比較した要支援•要介護認定の年齢補正ハザード比は,軽度うつ群で1.77(95%信頼区間(CI):0.91-3.48),中等度~重度うつ群で2.26(1.11-4.64)と,うつ状態の程度とともに有意に増加した(傾向性の P 値=0.023)。これは,疾患既往歴,ソーシャルサポートの有無,喫煙,認知機能などの影響を補正しても変わらなかった(多変量補正ハザード比;軽度うつ群:1.31(95%CI:0.65-2.65),中等度~重度うつ群:2.19(1.06-4.54),傾向性の P=0.034)。一方,女性では,うつ状態と要支援•要介護認定リスクとの間に有意な関連は認められなかった。また,うつ状態と死亡リスクには男女ともに有意な関連は認められなかった。
    結論 うつ状態と要支援•要介護認定リスクは,男性でのみ有意な関連が認められた。それは,ベースラインの既往歴,心身機能,社会的要因,生活習慣を補正してもなお認められた。うつ状態の要支援•要介護認定発生への影響は男女で異なる可能性が示唆された。地域高齢者のうつ対策が,生活の質の向上のみでなく,特に男性高齢者において,介護予防に重要であることが示された。
  • 赤澤 正人, 松本 俊彦, 勝又 陽太郎, 木谷 雅彦, 廣川 聖子, 高橋 祥友, 川上 憲人, 渡邉 直樹, 平山 正実, 亀山 晶子, ...
    2010 年 57 巻 7 号 p. 550-560
    発行日: 2010年
    公開日: 2014/06/12
    ジャーナル フリー
    目的 わが国の自殺者数は,平成10年に 3 万人を超えて以降,11年に渡りその水準で推移しており,自殺予防は医療や精神保健福祉の分野に留まらず,大きな社会的課題となっている。本研究では心理学的剖検の手法で情報収集がなされた自殺既遂事例について,死亡時の就労状況から有職者と無職者に分類し,その心理社会的特徴や精神医学的特徴の比較•検討を通じて,自殺既遂者の臨床類型を明らかにし,自殺予防の観点から有職者ならびに無職者に対する介入のポイントを検討することを目的とした。
    方法 心理学的剖検の手法を用いた「自殺予防と遺族支援のための基礎調査」から得られたデータをもとに分析を行った。調査は,自殺者の家族に対して独自に作成された面接票に準拠し,事前にトレーニングを受講した精神科医師と保健師等の 2 人 1 組の調査員によって半構造化面接にて実施された。本研究で用いた面接票は,家族構成,死亡状況,生活歴,仕事上の問題,経済的問題等に関する質問から構成されていた。なお,各自殺事例の精神医学的診断については,調査員を務めた精神科医師が遺族からの聞き取りによって得られたすべての情報を用いて,DSM-IVに準拠した臨床診断を行った。本研究では,2009年7 月中旬時点で23箇所の都道府県•政令指定都市から収集された自殺事例46事例を対象とした。
    結果 有職者の自殺者は,40~50代の既婚男性を中心として,アルコールに関連する問題や返済困難な借金といった社会的問題を抱えていた事例が多かった。無職者では,有職者に比べて女性の比率が高く,20~30代の未婚者が多く認められ,有職者にみられたような社会的問題は確認されなかった。また,有職者では死亡時点に罹患していたと推測される精神障害としてアルコール使用障害が多く認められたのに対して,無職者では統合失調症及びその他の精神病性障害が多く認められた。
    結論 自殺予防の観点から,有職者に対しては,職場におけるメンタルヘルス支援の充実,アルコール使用障害と自殺に関する積極的な啓発と支援の充実,そして債務処理に関わる司法分野と精神保健福祉分野の連携の必要性が示唆された。一方で,無職者に対しては,若い世代の自殺予防に関する啓発と支援の充実,統合失調症と自殺に関する研究の蓄積の必要性が示唆された。
資料
  • 大月 邦夫
    2010 年 57 巻 7 号 p. 561-570
    発行日: 2010年
    公開日: 2014/06/12
    ジャーナル フリー
    目的 新型インフルエンザの流行によって,保健所が期せずして注視されている。旧保健所法(1937年),改正保健所法(1947年),地域保健法(1994年)に基づき運営されてきた保健所の設置数およびその主な活動の動向を概観し,「公衆衛生行政の資料を得る」ことを目的とした。
    方法 1)地域保健法以後の保健所数の減少を医療計画との関連から考察した。2)保健所運営報告および地域保健•老人保健事業報告等を用いて,1997年の地域保健法施行前および後の保健所活動について,①全国の保健所が実施した主なる活動(1963年~2006年度),②群馬県の全保健所が実施した健康相談,衛生教育,試験検査の内容別件数(1982~2006年度),③群馬県藤岡保健所が実施した項目別検査件数(1959~2006年度)をそれぞれ検討した。
    結果 1)保健所数は,1997年度に初めて減少し,以後減少し続けている。2)健康診断から試験検査まで,全国の保健所が毎年実施してきた保健サービス量は,地域保健法施行後,全般的に減少を示した。3)群馬県の全保健所が実施した①健康診断を受けた人,②衛生教育の開催回数,③試験検査件数も,地域保健法施行後減少を示した。4)過去48年間遡及調査できた群馬県藤岡保健所の項目別検査件数は,地域保健法施行後明らかな減少を示した。
    結論 保健所は管内住民に直接的な保健サービスを提供してきた。地域保健法により「地域保健の広域的•専門的•技術的拠点」として集約されたが,保健所活動の科学的根拠を支える診断•検査機能の劣化が危惧される。
  • 松田 修
    2010 年 57 巻 7 号 p. 571-576
    発行日: 2010年
    公開日: 2014/06/12
    ジャーナル フリー
    目的 本研究の目的は,首都圏公立中学校における精神疾患理解教育の実施状況と課題を明らかにし,学校教育における精神疾患理解教育の今後の指針を得ることである。
    方法 本研究は,2008年11月~2009年 3 月にかけて首都圏(東京都,埼玉県,神奈川県)の47市区町村の公立中学校(507校)に対して実施された「公立中学校生徒の精神保健の現状と心の病気を学ぶ授業に関する調査」の中から,精神疾患理解教育の実施状況と課題に関する質問項目のデータを分析した結果である。このデータには,(1)精神疾患に関する授業の実施状況,(2)授業実施の必要性,(3)授業実施に関する教員の意見などに関する回答が含まれた。調査は無記名質問紙法によって実施された。
    結果 回収率は32.1%で163校から回答を得た。心の病気を学ぶ授業の実施状況については,過去 3 年以内に実施経験のある学校は全体の 4 割に満たなかった。しかしその一方で,「必要」と「どちらかといえば必要」と回答した回答者の割合は,全体の 8 割であった。この回答の主な理由は,「生徒の自己理解,自己成長を促し,今後の生徒の精神保健の向上に役立つから」,「正しい知識があることで,早期発見,早期受診,早期治療に役立つから」,「患者理解や共生に役立つから」であった。一方,必要ではないとする意見の教員は,その理由として「一斉授業になじみにくい」,「授業時間が確保できない」,「他に優先して指導すべき内容がある」と回答した。教員の 9 割が心の病気を教えるためのサポート体制が十分ではないと回答し,適切な指導ができるかどうか不安であると回答した。
    結論 回答者の大部分が,精神疾患理解教育の必要性を認めつつも,実際の授業実践に至っていないのが現状のようだ。教員の教材研究や授業実践を支援する取り組みが必要かもしれない。
feedback
Top