日本公衆衛生雑誌
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特定建築物における揮発性有機化合物による室内空気汚染 2002年建築物衛生法改正後の実態と残された問題点
酒井 潔上島 通浩柴田 英治大野 浩之那須 民江
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2010 年 57 巻 9 号 p. 825-834

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抄録

目的 建築物衛生法の環境衛生管理基準に「ホルムアルデヒド(HCHO)の量」が追加された2002年以降に竣工した特定建築物における揮発性有機化合物(VOC),特に未規制 VOC である 2-エチル-1-ヘキサノール(2E1H)による室内空気汚染の実態を明らかにする。
方法 調査対象建物は2003年から2007年までの 5 年間に名古屋市の半数の区内で届出のあった全特定建築物98ビルであった。竣工後 1 年以内に届出のあった61ビル中57ビル(93%)の175室で空気環境調査を行った。VOC 濃度は24時間パッシブサンプリング・高速液体クロマトグラフ法(13物質)またはガスクロマトグラフ-質量分析法(32物質)で測定した。
結果 HCHO 濃度は全室内で管理基準(100 μg/m3)を下回っていた。室内濃度指針値が設定されているトルエン,キシレン,エチルベンゼン,スチレン,p-ジクロロベンゼンならびにアセトアルデヒドの各濃度も大半の室内で指針値未満であり,指針値を超過していた場合の原因も室内に持ち込まれた物品であると推定された。2E1Hは99%の室内で検出され,57ビル中 4 ビルではその一部の室内で 2E1H 単独の濃度によって総揮発性有機化合物(TVOC)の暫定目標値(400 μg/m3)を超えていた。同時期に竣工後 1 年以内に届出のあったと推定される全国の特定建築物約4400ビル中310ビル(7%)で,2E1H 濃度が TVOC 暫定目標値を超える部屋を有する可能性があった。
結論 2003年以降に竣工した特定建築物での VOC による室内空気汚染レベルは低いと考えられたが,一部の特定建築物では TVOC 暫定目標値を超える 2E1H 濃度が観察された。2E1H はシックビルディング症候群の原因となることが疑われる物質であり,建物の躯体や建材などの組合せによって竣工後に二次的に発生する可能性があるので,室内空気汚染物質のひとつとして今後注目すべきである。

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© 2010 日本公衆衛生学会
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