日本公衆衛生雑誌
Online ISSN : 2187-8986
Print ISSN : 0546-1766
ISSN-L : 0546-1766
原著
中学生における近隣の地域環境の質,個人レベルの social capital と抑うつ症状との関連
朝倉 隆司
著者情報
ジャーナル フリー

2011 年 58 巻 9 号 p. 754-767

詳細
抄録

目的 中学生の認知に基づき身近な地域環境の質と個人レベルの認知的ならびに構造的 social capital(以下 SC と略す)を測定し,地域環境の質と個人レベルの認知的 SC との関連,そして地域環境の質と個人レベルの SC が抑うつ症状とどのような関連にあるかを明らかにする。さらに,抑うつ症状に対する地域環境の質と個人レベルの認知的 SC の交互作用の効果を検討する。
方法 まず,中学生の身近な地域環境への認知を明らかにするため質的調査を行った。続いて,中学 2 年生を対象に自記式質問紙調査を行った。分析に用いた変数は,Center for Epidemiologic Studies Depression Scale(CES–D)10項目版,地域環境の質,個人レベルの SC(認知,構造)と人口学的属性である。関連は,モデルに用いた全変数に不明のない1,786人を対象に一般化推定方程式を用いた重回帰モデルにより検討した。
結果 身近な地域環境の質的特性を測定する 7 尺度,個人レベルの認知的 SC ならびに構造的 SC の指標を作成した。重回帰モデルにより,属性を制御した上で,「利便性と施設•サービスの充実」,「近隣の人間関係の結束」,「憩いやスポーツの場」,「治安の悪さ,事故の危険性」,「自発的な地域活動」,「街の美観と静謐さ」が認知的 SC と有意な関連にあること,「利便性と施設•サービスの充実」,「治安の悪さ,事故の危険性」,「密集•猥雑•非衛生」,認知的 SC が抑うつ症状と有意な関連にあることを明らかにした。また,「密集•猥雑•非衛生」と認知的 SC の交互作用が抑うつ症状と有意な関係にあることを示した。
結論 サービスの利便性,衛生,安全や社会秩序など身近な地域環境の質を社会施策や自主的な社会活動により改善することで,思春期の精神健康の推進に寄与できる可能性がある。また,地域の良好な社会関係を経験することで醸成される認知的 SC も,精神健康に重要な役割を果たしていると考えられる。

著者関連情報
© 2011 日本公衆衛生学会
前の記事 次の記事
feedback
Top