日本公衆衛生雑誌
Online ISSN : 2187-8986
Print ISSN : 0546-1766
ISSN-L : 0546-1766
原著
3歳児を持つ親の子育てと他者への信頼との関連 父親と母親の特性の違い
本田 光宇座 美代子
著者情報
ジャーナル フリー

2012 年 59 巻 5 号 p. 315-324

詳細
抄録

目的 関係性喪失の時代と言われる現代社会において,コミュニティーとの関係性を築く力が個々人に問われている。本研究では,筆者が開発したコミュニティーにおける人々の他者への信頼を測定する尺度を使用して,3 歳児を持つ親の子育てとの関連性を明らかにする。さらに他者への信頼の側面から,父親と母親における特性の違いを明らかにすることを目的とする。
方法 A 市の 3 歳児健康診査を受診した児の保護者329件(父親134件,母親195件)を分析対象とした。調査票は自宅で記入してもらい,健診当日に回収した。他者への信頼は,「絆を築くための戦略的信頼」,「社会一般の人に対する信頼」,「特定の人に対する信頼」の 3 つの下位尺度で構成されている。分析は,他者への信頼の下位尺度得点を父親と母親で求め,父母の基本的属性等の影響を確認した後,ロジスティック回帰分析によって子育てに対する心理との関連を分析した。
結果 他者への信頼に対する父母の基本的属性等の影響は,父母双方において A 市内出身である場合に,「絆を築くための戦略的信頼」が高く,就業している母親は,無職の母親に比べて,「絆を築くための戦略的信頼」と「特定の人に対する信頼」が高かった。また,子どもの性別による影響は,母親において子どもが男児である場合に,女児である場合と比べて,「絆を築くための戦略的信頼」が高いことが確認された。
  子育ての心理との関連について分析した結果,「父親は絆を築くための戦略的信頼」,「特定の人に対する信頼」との間に関連がみられた。しかし,「社会一般の人に対する信頼」とは関連が見られなかった。母親の場合は,他者への信頼の 3 つの下位尺度すべてに関連性を示したが,基本的属性等の影響を調整すると,「絆を築くための戦略的信頼」との関連性は示さなくなった。
結論 コミュニティーにおける人々の他者への信頼は父親と母親のコミュニティーとのつきあい方(関係性)の違いを反映していたと考えられる。
  他者への信頼が高いほど,子育てに楽しみを感じ,そして日常の生活と子育てとの間に生じる育児の疲れを和らげることに関連があった。しかし,父親には 「社会一般の人に対する信頼」に関連がみられなかったように,他者への信頼と子育てとの関連には父母の特性に違いがあることが明らかになった。

著者関連情報
© 2012 日本公衆衛生学会
前の記事 次の記事
feedback
Top