日本公衆衛生雑誌
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59 巻 , 5 号
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原著
  • 加藤 龍一, 高城 智圭, 櫻井 尚子, 星 旦二
    2012 年 59 巻 5 号 p. 305-314
    発行日: 2012年
    公開日: 2014/04/24
    ジャーナル フリー
    目的 地域社会で生じる転倒や転倒による骨折に関連する各種要因について縦断的に分析し,さらに転倒の経験が,高齢者のその後の生存に影響を与えるかどうかを明らかにすることを研究目的とした。
    方法 2001年 9 月に実施された施設入所者を除く A 市在住高齢者全員(16,462人)を対象とした郵送法による自記式質問紙調査に回答し,さらに2004年 9 月の再調査に回答し2007年 8 月まで転居しなかった8,285人を分析対象とした。2004年 9 月の再調査前 1 年間に生じた転倒,転倒による骨折に影響を与えた2001年の要因に関し統計学的分析を行った。さらに転倒の経験がその後の高齢者の生存に与えた影響について,Cox 比例ハザード分析による生存分析を行った。
    結果 転倒状況についてもれなく回答が得られたのは6,420人(男性3,127人,女性3,293人)で,転倒率,転倒による骨折率は,男性16.4%,2.1%,女性27.8%,6.2%と女性に高率であった(P<0.001)。また転倒率は男女とも,年齢階層の上昇とともに増加する傾向を示した。転倒,転倒による骨折に影響する因子に関する多重ロジスティック回帰分析の結果,転倒には外出頻度以外すべての因子が統計学的に有意に(P<0.001)関連した。性別,年齢階層以外でもっとも強く関連したのは痛みで(OR, 1.75)体に痛み部位があると転倒しやすかった。また IADL の低下があると(OR, 1.45),主観的健康感が低下していると(OR, 1.42),治療中の病気があると(OR, 1.35)転倒しやすかった。骨折には性別,年齢層以外では,痛み部位があると(OR, 1.85),IADL 不能があると(OR, 1.61)骨折しやすかった。2007年までの生存には転倒が関連し,ハザード比は男性(1.94),女性(1.43)と男女共に転倒を経験すると生存が保たれなかった。
    結論 地域在住高齢者においては,加齢,体の痛みや病気の出現,IADL や主観的健康感の低下が,その後の転倒の発生と関連していた。また転倒の経験は,その後の生存に関連することが示された。
  • 本田 光, 宇座 美代子
    2012 年 59 巻 5 号 p. 315-324
    発行日: 2012年
    公開日: 2014/04/24
    ジャーナル フリー
    目的 関係性喪失の時代と言われる現代社会において,コミュニティーとの関係性を築く力が個々人に問われている。本研究では,筆者が開発したコミュニティーにおける人々の他者への信頼を測定する尺度を使用して,3 歳児を持つ親の子育てとの関連性を明らかにする。さらに他者への信頼の側面から,父親と母親における特性の違いを明らかにすることを目的とする。
    方法 A 市の 3 歳児健康診査を受診した児の保護者329件(父親134件,母親195件)を分析対象とした。調査票は自宅で記入してもらい,健診当日に回収した。他者への信頼は,「絆を築くための戦略的信頼」,「社会一般の人に対する信頼」,「特定の人に対する信頼」の 3 つの下位尺度で構成されている。分析は,他者への信頼の下位尺度得点を父親と母親で求め,父母の基本的属性等の影響を確認した後,ロジスティック回帰分析によって子育てに対する心理との関連を分析した。
    結果 他者への信頼に対する父母の基本的属性等の影響は,父母双方において A 市内出身である場合に,「絆を築くための戦略的信頼」が高く,就業している母親は,無職の母親に比べて,「絆を築くための戦略的信頼」と「特定の人に対する信頼」が高かった。また,子どもの性別による影響は,母親において子どもが男児である場合に,女児である場合と比べて,「絆を築くための戦略的信頼」が高いことが確認された。
      子育ての心理との関連について分析した結果,「父親は絆を築くための戦略的信頼」,「特定の人に対する信頼」との間に関連がみられた。しかし,「社会一般の人に対する信頼」とは関連が見られなかった。母親の場合は,他者への信頼の 3 つの下位尺度すべてに関連性を示したが,基本的属性等の影響を調整すると,「絆を築くための戦略的信頼」との関連性は示さなくなった。
    結論 コミュニティーにおける人々の他者への信頼は父親と母親のコミュニティーとのつきあい方(関係性)の違いを反映していたと考えられる。
      他者への信頼が高いほど,子育てに楽しみを感じ,そして日常の生活と子育てとの間に生じる育児の疲れを和らげることに関連があった。しかし,父親には 「社会一般の人に対する信頼」に関連がみられなかったように,他者への信頼と子育てとの関連には父母の特性に違いがあることが明らかになった。
研究ノート
  • 杉澤 秀博, 石川 久展, 杉原 陽子
    2012 年 59 巻 5 号 p. 325-332
    発行日: 2012年
    公開日: 2014/04/24
    ジャーナル フリー
    目的 閉じこもり高齢者の把握ルートの一つに民生委員によるものがある。しかし,民生委員を通じた把握がどの程度可能か,それに伴う問題点は何かを分析した研究はほとんどない。本研究では,第 1 に,民生委員が意識的に把握および報告活動を行うことで,閉じこもり高齢者の把握がどの程度可能か推定すること,第 2 に,民生委員による把握および報告に伴う困難を質的分析により明らかにすること,の 2 点である。
    方法 調査対象は,民生委員協議会から閉じこもり高齢者の把握および報告に協力が得られた関東地方の一市の地区であった。民生委員を通じた把握率の推定は次の 3 段階で行った。第 1 に,対象地区の高齢者の確率標本を対象とした量的調査により閉じこもり高齢者数を推定する。第 2 に,当該地区の民生委員に閉じこもり高齢者の把握および報告活動を 2 か月間意識的に実施してもらう。第 3 に,民生委員によって閉じこもり高齢者として報告されたケースが閉じこもりであるか否かを評価し,「民生委員を通じた把握数」を確定させる。第 4 に,量的調査で把握した「閉じこもり高齢者の推定数」に対する「民生委員を通じた把握数」の比率で把握率を求める。把握および報告活動に伴う問題点の解明は,把握および報告活動に参加した民生委員を対象としたフォーカスグループインタビューに基づき KJ 法を用いて行った。
    結果 民生委員を通じた把握率は1.4%であった。民生委員が把握および報告をする際に直面する困難には,「把握の機会が乏しい」と「報告をためらう」があった。
    結論 民生委員を通じた閉じこもり高齢者の把握率は低いものの,協力を得ることで現在よりも多くのケースが把握可能となることが示唆された。民生委員を通じた把握率を高めていくには,民生委員の日常の活動負担の軽減,ケースとして報告しても住民との関係性が害されないように匿名性が確保される必要があることが示唆された。
  • 古畑 勝則, 枝川 亜希子, 福山 正文
    2012 年 59 巻 5 号 p. 333-338
    発行日: 2012年
    公開日: 2014/04/24
    ジャーナル フリー
    目的 近年,全国各地に急増している温泉水を利用した足湯を対象にレジオネラ属菌の生息状況を把握することを目的とした。
    方法 2009年 3 月から2011年11月にかけて全国37都道府県の温泉水を利用した足湯を採取した。レジオネラ属菌の分離同定は「第 3 版レジオネラ症防止指針」に準拠した。すなわち,試料を濃縮後,酸処理を行ってから GVPCα 寒天培地に塗抹し,36℃で 7 日間培養した。グラム陰性の長桿菌で,システイン要求性の菌株をレジオネラ属菌とした。イムノクロマトグラフィーを用いて一次同定後,免疫血清凝集反応あるいは遺伝子学的試験により菌種を同定した。
    結果 足湯からのレジオネラ属菌の分離状況は,全体では196試料中56試料(28.6%)から分離され,北海道から九州まで全国各地の足湯に広く生息していることが明らかになった。足湯の設置場所別ではホームを含む駅周辺で40.9%と最も高率に分離された。足湯100 ml 当たりのレジオネラ属菌数は,1.0×101 CFU から最高1.0×104 CFU であったが,102 CFU 未満が34試料(60.7%)と最も多かった。分離菌種では Legionella pneumophila が優占種であり,なかでも 1 群が16株(23.9%)と高頻度に分離された。このほか,Legionella londiniensis が 7 株(10.4%),Legionella rubrilucens が 4 株(6.0%)あった。
    結論 全国各地に設置された温泉利用の足湯において約30%にレジオネラ属菌が生息していることが明らかとなった。菌数は少ないものの,レジオネラ症の重要な原因菌である Legionella pneumophila が優占していることからレジオネラ症が発生する可能性は否定できない。各施設においては,レジオネラ属菌の現状把握とともに,衛生的維持管理の継続が必要である。
資料
  • 上岡 裕美子, 伊藤 文香, 松田 智行, 富岡 実穂, 木下 由美子
    2012 年 59 巻 5 号 p. 339-351
    発行日: 2012年
    公開日: 2014/04/24
    ジャーナル フリー
    目的 地震時の要援護者の被災予防と避難支援対策について,特に慢性疾患もしくは身体障害を有する成人•高齢者の在宅療養者に焦点をあて,茨城県の保健所,市町村,訪問看護ステーションにおける2008年から2009年の時点での実態を明らかにし,今後の,要援護者個々への地震の備えと避難支援をするための地域ケアシステム構築の一助にすることを目的とする。
    方法 茨城県内の,全訪問看護ステーション93か所の管理者,全44市町村および全12保健所の危機管理対策に携わる保健師を対象に,郵送自記式質問紙調査を実施した。質問内容は,要援護者に対する被災予防•避難支援の取り組みの実施状況,被災予防•避難支援の事前対策における訪問看護ステーション,市町村,保健所の役割についての認識とした。
    結果 調査票の回収数と回収率は,訪問看護ステーションが54件(58.1%),市町村が22件(50.0%),保健所が 8 件(66.7%)であった。訪問看護ステーションと保健所では,マニュアルを「作成した」が22件(40.7%)と 3 件であったが,市町村では「作成した」が 1 件のみであった。個別の避難支援計画(避難支援者,避難場所,避難方法)の作成については,訪問看護ステーションの50件(92.6%),市町村の12件(54.6%)が作成していなかった。要援護者の避難訓練を実施したところは,市町村 5 件(22.7%),保健所 1 件のみで,訪問看護ステーションは実施したところはなかった。被災予防•避難支援の事前対策における訪問看護ステーション,市町村,保健所の役割については,ほとんどの項目で,市町村は「市町村が対応すべき」が過半数を占めたが,保健所は「保健所と市町村が協働して対応すべき」が過半数を占め,訪問看護ステーションも「訪問看護ステーションと市町村•保健所が連携すべき」が過半数を占めた。
    結論 茨城県の訪問看護ステーションにおいてはマニュアルの作成はある程度行われているが,要援護者への避難場所•避難方法の指導など要援護者個々への取り組みは乏しいことがわかった。市町村でも個別の避難支援計画作成•避難訓練の実施など要援護者への個別対応は今後の課題であり,これらへの市町村保健師の参画,訪問看護師•ケアマネジャー向けの被災予防教育も重要であると考えられた。医療•介護ニーズの高い要援護者の受け入れ先病院•施設の確保および災害時に必要な看護を継続するために,県•保健所,市町村,複数の訪問看護ステーションが連携して準備することが必要である。
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