日本公衆衛生雑誌
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研究ノート
海外食中毒事例の解析から想定される輸入食品のリスク
金山 敦宏加來 浩器
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キーワード: 食中毒, 輸入食品, 検疫
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2013 年 60 巻 11 号 p. 697-704

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抄録

目的 近年,国民の食生活の多様化に伴い,海外からの輸入食品を喫食する機会が増えている。海外における主な食中毒事例の原因食品は,国内発生事例の原因食品と必ずしも一致するとは限らず,潜在的に輸入食品が国内で食中毒を発生させる原因となりうる。本研究では,2011–2012年の 2 年間に海外で発生し公表•報道された食中毒のうち,原因食品の特定された主な事例を分析し,輸入食品のリスクを調査した。
方法 本研究において「食中毒事例」は,食品衛生法第58条に従って,「食品,添加物,器具若しくは容器包装に起因した中毒事例(疑い例を含む)」と定義した。海外の食中毒事例に関する情報は,国際感染症学会の公式プログラムである ProMED-mail(the Program for Monitoring Emerging Diseases; http://www.promedmail.org,以下 ProMED)に2011–2012年の 2 年間に掲載されたものを使用した。国内の食中毒事例との比較には,食品安全委員会の公表している統計や国立感染症研究所の病原微生物検出情報の資料などを参照した。
結果 2011–2012年に ProMED に掲載された感染症関連事例のうち,続報などを除いた主な海外の食中毒事例は113件で,原因病原体として細菌が98件(86.7%)と大多数を占めた(表 1)。このうちサルモネラ属菌が39件(39.8%)と最も多く,ボツリヌス菌20件(20.4%)と合わせると約 6 割を占めた。サルモネラ食中毒事例の特徴は,原因食品として国内では想定しにくい果実類(6 件)や豆類•種実類(3 件)があること,野菜類や魚介類の割合が多いことであった。また,野菜等の缶詰等がボツリヌス中毒の原因としてリスクの高いことが分かった。さらに,メロンの喫食からリステリア症を発症した事例や,イチゴからノロウイルスのアウトブレイクが発生するなど国内では稀な事例が存在した。
結論 海外における食中毒事例では,国内の常識が当てはまらない事例が数多く報告されていることが明らかとなった。これらの食品が輸入され国内流通した場合には食中毒発生リスクのあることが示された。

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© 2013 日本公衆衛生学会
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