日本公衆衛生雑誌
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研究ノート
健康保険組合レセプトデータ分析によるがん患者の受療医療施設の分布
田中 宏和中村 文明東 尚弘小林 廉毅
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2015 年 62 巻 1 号 p. 28-38

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抄録

目的 がん患者ががん診療連携拠点病院(以下,がん拠点病院)など,どの医療施設でどのような治療を受けているのかを明らかにする必要があるが,がん患者の受療医療施設の分布やがん部位,治療ごとの報告は乏しい。本研究では健康保険組合のレセプトデータを用いたがん患者の受療医療施設と治療の分析により,がん患者の受療行動の現状を示す基礎資料を得る。
方法 日本医療データセンター(Japan Medical Data Center, JMDC)が構築した,複数の健康保険組合のレセプトデータベースである JMDC Claims Database(対象者1,064,875人,2011年12月時点)を用いた。2005年から2011年の間に,5 大がん(胃,大腸,肝臓,肺,乳房)でがん治療を受けた患者を絞り込み,治療のうち最も時期の早いものを初回治療として治療内容(手術,放射線治療,化学療法など),治療術式(開腹,腹腔鏡,全摘出,部分切除など)を分類した。これらの治療を受けた医療施設を都道府県がん拠点病院,地域がん拠点病院,大・中病院(100床以上),小病院(20–99床),診療所(0–19床)の 5 つの医療施設群に分類し患者数,各医療施設群の占める割合,平均年齢を求めた。さらに初回治療以降の治療も含む治療内容,治療術式ごとに件数と各医療施設群の占める割合を算出した。
結果 治療を受けた 5 大がん患者は2,901人だった。がん拠点病院で初回治療を受けたがん患者の割合は 5 大がん全体で43.9%であり,肺がんの60.0%で最も高く,大腸がんの31.3%で最も低かった。肝臓がん,肺がんの手術の多く(それぞれ67.6%,61.9%)ががん拠点病院で行われていたのに対し,胃がん,大腸がん,乳がんではそれぞれ45.5%,40.1%,49.8%にとどまった。また,胃がん,乳がんで手術の9.4%,9.3%,胃がん,大腸がんで内視鏡治療の14.1%,40.6%,乳がんで化学療法の11.4%が小病院または診療所で行われていた。大腸がんと乳がんでは患者の平均年齢がそれぞれ54.8歳,48.6歳であったが,都道府県がん拠点病院ではそれぞれ51.4歳,46.6歳で,診療所ではそれぞれ53.2歳,45.0歳であり,その他の医療施設群に比べより年齢の若い患者が治療を受けている傾向にあった。
結論 健康保険組合レセプトデータによってがん患者の受療医療施設の分布を分析した本研究では,がん部位や治療内容,治療術式と年齢によってがん患者の受療医療施設の分布には違いがあるというがん患者の受療行動の現状を示した。

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© 2015 日本公衆衛生学会
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