日本公衆衛生雑誌
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研究ノート
全国保健所アンケートに基づくてんかんの地域保健支援体制に関する実態調査
藤井 正美石丸 泰隆高橋 幸広惠上 博文西田 秀樹岡 紳爾調 恒明
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2015 年 62 巻 10 号 p. 609-616

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抄録

目的 てんかんは人口の約 1%を占める決して珍しくない病気であり,近年,高齢化とともにてんかん患者が増加している。また就学,就労,運転免許などの社会生活面や障がい者福祉などでも患者は多くの問題を抱えている。しかしてんかん患者の抱える問題が地域保健行政に十分理解されているとは言い難く,医療・介護・福祉の連携体制の不備も指摘されている。そこで,てんかんに関する地域保健活動の実態を把握し,今後の支援体制や啓発活動に活用することを目的に全国保健所を対象に実態調査を行なった。
方法 全国490か所の保健所を対象にてんかんの地域保健支援体制に関するアンケートを実施した。方法は自記式調査票を保健所に郵送,担当保健師 1 人が代表して回答・返送する形式とし,平成26年 9~10月に実施した。調査内容は保健所で受けたてんかんに関する相談の有無および内容,研修会等実施の有無,保健所で扱う難病および感染性疾患の研修との対比等とした。
結果 全国347保健所から回答を得た(回収率71%)。内訳は都道府県型保健所(県型)263か所(72%),指定都市・中核市・政令市・特別区保健所(市型)84か所(67%)であった。保健師がてんかんに関する相談を受けた経験は73%(県型69%,市型88%)であり,市型に多かったが(P<0.01),適切に対応できるという回答はわずか10%であった(県型,市型で差はなし)。相談の内容は医療機関,症状・将来の不安が多かった。保健師が把握している研修会の開催は専門職,住民対象がともに 8%であり,県型(専門職,住民ともに 5%)に比べ市型(専門職17%,住民18%)で多く開催されていた(P<0.01)。またこの割合は他の保健所が扱う疾患の研修会(21%~70%)と比べ有意に少なかった(P<0.01)。てんかんについての知識は保健師の76%が必要と考え,60%は研修会があれば参加したいと回答した。
結論 多くの保健所保健師はてんかんに関する相談を受けている反面,適切には回答できていないと感じている。またてんかんの知識は必要と感じているが,研修等を通して知識の修得ができない境遇にある。これらの結果を踏まえ,今後はてんかん学会・協会,医師会,医療機関等が行政と恊働し,てんかんの啓発活動を地域保健に取り入れることが重要である。さらに都道府県単位に包括的高度専門てんかんセンター等を設置し,行政保健師や介護・福祉・教育等専門職が情報収集のできる環境整備が望まれる。

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© 2015 日本公衆衛生学会
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