日本公衆衛生雑誌
Online ISSN : 2187-8986
Print ISSN : 0546-1766
ISSN-L : 0546-1766
研究ノート
入院がん患者の地理的な受療行動 二次医療圏とがん診療連携拠点病院に着目した分析
田中 宏和片野田 耕太
著者情報
ジャーナル フリー

2015 年 62 巻 12 号 p. 719-728

詳細
抄録

目的 入院がん患者の二次医療圏を超える受診とがん診療連携拠点病院(以下,がん拠点病院)の受診について,二次医療圏のがん拠点病院の有無に特に着目して分析し,入院がん患者の地理的な受療行動の特徴を明らかにする。
方法 2011年患者調査(513,280件)と医療施設調査(8,632件)の調査個票情報を突合した。このデータセットに二次医療圏やがん拠点病院の指定などの情報を付加した。全疾患,がん(主ながんの部位で区分),糖尿病,循環器疾患ごとに【市区町村内】,【二次医療圏内の他の市区町村】,【二次医療圏外の他の市区町村】,【他の都道府県/その他・不詳】の 4 つの受診の地理的範囲区分に分類し患者数とその割合,平均年齢を算出した。また,入院患者を居住二次医療圏のがん拠点病院有無で分け,二次医療圏を超える受診とがん拠点病院の受診かどうかで受診先を分類し患者数とその割合を算出した。
結果 入院がん患者数の推定値は132.7千人で,そのうちの47.6%が市区町村内の医療施設への受診だった。がん,糖尿病,循環器疾患の二次医療圏を超える受診の割合はそれぞれ27.5%,18.2%, 20.1%であった(がんに対してそれぞれ P<0.01)。4 つの受診の地理的範囲区分で遠方の受診になるほど,より患者の平均年齢が低くなる傾向が観察された(がんでは順に71.8, 69.1, 66.0, 64.9歳,P for trend<0.01)。居住二次医療圏にがん拠点病院がある入院がん患者は114.2千人であり,全体に占める割合は86.5%であった。居住二次医療圏のがん拠点病院有無による,二次医療圏を超える受診の割合の差はがん全体で31.9ポイント(がん拠点病院あり23.2% vs なし55.1%,P<0.01)だった。また,がん拠点病院受診の割合の差は 5 大がんで11.7ポイント(がん拠点病院あり40.6% vs なし28.9%,P<0.01)だった。
結論 入院がん患者はその他の疾患よりも二次医療圏を超える受診の割合が高く,地理的な受療行動には,がんの部位および年齢に加えて,居住二次医療圏のがん拠点病院有無が関連していた。居住二次医療圏の医療施設整備状況によってがん医療への地理的なアクセスのしやすさに差が生じている可能性が示唆された。

著者関連情報
© 2015 日本公衆衛生学会
前の記事 次の記事
feedback
Top