日本公衆衛生雑誌
Online ISSN : 2187-8986
Print ISSN : 0546-1766
ISSN-L : 0546-1766
短報
東日本大震災の避難者の避難状況と運動習慣 福島県「県民健康調査」
永井 雅人大平 哲也安村 誠司高橋 秀人結城 美智子中野 裕紀章 文矢部 博興大津留前田 正治高瀬 佳苗福島県「県民健康調査」グループ
著者情報
キーワード: 運動習慣, 震災, 避難状況
ジャーナル フリー

2016 年 63 巻 1 号 p. 3-10

詳細
抄録

目的 東日本大震災による避難者において,生活習慣病が増加していることが報告されている。避難による生活環境の変化に伴い,身体活動量が減少したことが原因の一つとして考えられる。しかしながら,これまで避難状況と運動習慣との関連は検討されていない。そこで,福島県民を対象とした福島県「県民健康調査」より,避難状況と運動習慣の関連を検討した。
方法 震災時に原発事故によって避難区域に指定された13市町村に居住していた,平成 7 年 4 月 1 日以前生まれの37,843人を解析対象者とした。避難状況は震災時の居住地(13市町村),避難先(県内避難・県外避難),現在の住居形態(避難所または仮設住宅,借家アパート,親戚宅または持ち家)とした。また,本研究では自記式質問票にて運動を「ほとんど毎日している」または「週に 2~4 回している」と回答した者を「運動習慣あり」と定義した。統計解析は,運動習慣がある者の割合を性・要因別(震災時の居住地,避難先,住居形態)に集計した。また,standard analysis of covariance methods を用いて,年齢,および震災時の居住地,避難先,住居形態を調整した割合も算出した。
結果 運動習慣がある者の調整割合は,震災時の居住地別に男性:27.9~46.5%,女性:27.0~43.7%,と男女それぞれ18.6%ポイント,16.7%ポイントの差が観察された。避難先別では,男性で県外(37.7%),女性で県内(32.1%)においてより高かったが,その差は小さく男性:2.2%ポイント,女性:1.8%ポイントであった。住居形態別では,男女ともに借家アパート居住者が最も低く,避難所または仮設住宅居住者が最も高かった(男性:38.9%,女性:36.7%)。避難所または仮設住宅居住者に比し,借家アパート居住者で男性:5.4%ポイント,女性:7.1%ポイント,親戚宅または持ち家居住者で男性:2.0%ポイント,女性:4.2%ポイント,それぞれ低かった。
結論 避難区域に指定された13市町村に居住していた者の運動習慣がある者の割合は,震災時の居住地および住居形態によって異なっていた一方,県内避難者と県外避難者との間では同程度であった。とくに借家アパートに居住している者における割合が低く,孤立した人々を対象とした新たな生活習慣病予防対策を立案・実行することが必要である。

著者関連情報
© 2016 日本公衆衛生学会
次の記事
feedback
Top