日本公衆衛生雑誌
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63 巻, 1 号
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短報
  • 永井 雅人, 大平 哲也, 安村 誠司, 高橋 秀人, 結城 美智子, 中野 裕紀, 章 文, 矢部 博興, 大津留 , 前田 正治, 高瀬 ...
    2016 年 63 巻 1 号 p. 3-10
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/01/29
    ジャーナル フリー
    目的 東日本大震災による避難者において,生活習慣病が増加していることが報告されている。避難による生活環境の変化に伴い,身体活動量が減少したことが原因の一つとして考えられる。しかしながら,これまで避難状況と運動習慣との関連は検討されていない。そこで,福島県民を対象とした福島県「県民健康調査」より,避難状況と運動習慣の関連を検討した。
    方法 震災時に原発事故によって避難区域に指定された13市町村に居住していた,平成 7 年 4 月 1 日以前生まれの37,843人を解析対象者とした。避難状況は震災時の居住地(13市町村),避難先(県内避難・県外避難),現在の住居形態(避難所または仮設住宅,借家アパート,親戚宅または持ち家)とした。また,本研究では自記式質問票にて運動を「ほとんど毎日している」または「週に 2~4 回している」と回答した者を「運動習慣あり」と定義した。統計解析は,運動習慣がある者の割合を性・要因別(震災時の居住地,避難先,住居形態)に集計した。また,standard analysis of covariance methods を用いて,年齢,および震災時の居住地,避難先,住居形態を調整した割合も算出した。
    結果 運動習慣がある者の調整割合は,震災時の居住地別に男性:27.9~46.5%,女性:27.0~43.7%,と男女それぞれ18.6%ポイント,16.7%ポイントの差が観察された。避難先別では,男性で県外(37.7%),女性で県内(32.1%)においてより高かったが,その差は小さく男性:2.2%ポイント,女性:1.8%ポイントであった。住居形態別では,男女ともに借家アパート居住者が最も低く,避難所または仮設住宅居住者が最も高かった(男性:38.9%,女性:36.7%)。避難所または仮設住宅居住者に比し,借家アパート居住者で男性:5.4%ポイント,女性:7.1%ポイント,親戚宅または持ち家居住者で男性:2.0%ポイント,女性:4.2%ポイント,それぞれ低かった。
    結論 避難区域に指定された13市町村に居住していた者の運動習慣がある者の割合は,震災時の居住地および住居形態によって異なっていた一方,県内避難者と県外避難者との間では同程度であった。とくに借家アパートに居住している者における割合が低く,孤立した人々を対象とした新たな生活習慣病予防対策を立案・実行することが必要である。
公衆衛生活動報告
  • 水間 良裕, 鉛山 光世, 前永 和枝, 永山 由香, 西 順一郎
    2016 年 63 巻 1 号 p. 11-16
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/01/29
    ジャーナル フリー
    目的 介護・福祉職員の感染対策のさらなるレベルアップを図るためにセミナーを企画,実施した。今回のセミナーの概要を振り返り効果と課題を明らかにすることを目的とする。
    方法 病院の感染制御従事者の集まりである鹿児島 ICT ネットワークの主催で,介護・福祉施設向けのセミナーを開催し,感染対策の基本について啓発するとともに,質疑応答を通じて介護・福祉の現場の感染対策の現状を把握する。
    活動内容 2015年 5 月27日に鹿児島市で「介護・福祉向け感染対策セミナー」を開催し,239人の参加があった。本セミナーでは,地域包括ケアにおける感染対策の意義,感染対策としての口腔ケア,標準予防策の基本について講演し,手指衛生と個人防護具着脱の実技演習を行った。また参加者からの質問をもとに質疑応答を行い,介護・福祉の現場からの率直な疑問に回答するとともに現状を再認識した。
    結論 介護・福祉の現場は感染管理に長けた医療従事者が常に近くにいないため,日々様々な疑問を持ちながら業務にあたっていることが分かった。また,不十分な予防策がとられている一方で,過剰で不必要な感染対策が行われている実態も明らかになった。地域包括ケアを進めるためには,病院の感染制御医師や感染管理認定看護師と介護福祉士をはじめとする介護・福祉の現場職員との綿密な連携が重要である。
研究ノート
  • 月野木 ルミ, 村上 義孝, 早川 岳人, 橋本 修二
    2016 年 63 巻 1 号 p. 17-25
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/01/29
    ジャーナル フリー
    目的 震災による疾患発生・死亡への影響を検討した疫学研究(保健医療統計調査を含む)を対象に系統的な文献レビューを行い,疾患別に震災からの経過時間とその影響の関連を検討した。
    方法 文献検索には MEDLINE を用い,発行年が1990年 1 月 1 日から2012年10月30日,政府統計もしくは500人程度以上の集団,を検索条件として実行した。文献レビューでは重複文献,少数例の調査,動物実験,実験的研究など不適切な文献を除外した。最終的に抽出した文献から,震災からの経過時間と震災前後の疾患発生・死亡の増減に焦点をあてチャート図にまとめた。なお経過時間については災害サイクルに基づき,発生~3 日,4 日~3 週間,1 か月~5 か月,6 か月から 1 年未満,1 年,2 年以降とした。疾患分類は精神障害,自殺,感染症,外傷,循環器疾患とした。
    結果 文献検討の結果54件が抽出された。精神障害では,震災直後からのうつ症状の有訴率,心的外傷後ストレス障害などの精神的ストレス評価指標は高い得点を示す割合が高く,震災後 6 か月以降緩やかに減少傾向を示したものの,震災 3 年後でも依然高い得点を維持する傾向がみられた。自殺では震災後 1,2 年間は減少傾向を示し,その特性は中高年男性のみ減少傾向,男性で減少傾向を示す一方で,女性では増加傾向を示すなど,性・年齢・被災地域での違いで認められた。感染症では震災の影響は震災直後から数か月間と限定的であり,理由として衛生状態の悪化などが示されていた。外傷では震災発生時から 2,3 日間死亡および入院が激増し,それ以降は激減した。循環器疾患では,急性心筋梗塞は発症・死亡数のピークが震災後24時間~数日で夜間発症例が多く,3~6 か月間から最長 1 年間は継続し,震災規模や被災状況により増加する期間に違いが認められた。脳卒中は急性心筋梗塞と同様のパターンを示し70~80歳での発症・死亡が多かった。その他,突然死,たこつぼ型心筋症の報告があり,震災直後から 1 週間~1 か月程度は平時に比べ増加する傾向にあった。
    結論 疾患により震災発生からの経過時間と疾患発生のパターンに大きな違いがあり,震災直後の疾病の増加抑制のためには,疾患に応じた介入タイミングがあることが示された。
  • 丸谷 美紀, 岡田 由美子, 長谷川 卓志
    2016 年 63 巻 1 号 p. 26-35
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/01/29
    ジャーナル フリー
    目的 保健師の自殺対策に取り組む NPO 等支援団体(以下,支援団体)との協働の方法を明らかにする。
    方法 2012年12月から2013年10月の期間に,11の支援団体の代表者,および,その支援団体が存在する自治体で自殺対策を担当する保健師13人へ,半構造化面接を行った。調査内容は,自殺対策の活動全体,支援団体と保健師との協働の詳細,自殺対策の成果と課題等であった。支援団体と保健師それぞれの調査内容を質的帰納的に分析し,協働の方法に関してカテゴリをそれぞれ作成した。両者のカテゴリを突合し,同様の内容が読み取れるものを,協働の方法のコアカテゴリとした。
    結果 協働の方法のコアカテゴリは,次の 6 つが得られた:1. 自殺の実態と相互の役割理解の元に活動基盤を整える,2. 相互の目的/特徴に即した啓発活動を展開する,3. 各自の活動や協働の場で遭遇したハイリスク者の健康と生活を補い合って支援する,4. 危機介入時に補い合って命を守り生活を再建する,5. 各自の活動や協働の場で遭遇・接近した遺族・未遂者の快復に寄り添う,6. 互いの結束や評価の元に活動を継続・拡大する。
    結論 自殺対策において保健師の支援団体との協働の方法は次のことが明らかになった。支援団体の公民としての責任感を理解し,保健活動で蓄積した情報を共有し,ハイリスク者の健康の社会決定要因を改善するとともに基本的ニードを満たし,活動基盤や事後の衝撃を支え合い,行政の対応能力・機敏性を意識的に高める。
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