日本公衆衛生雑誌
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医療観察法対象者の地域支援の現状と課題
原田 小夜辻本 哲士角野 文彦中原 由美
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2016 年 63 巻 10 号 p. 618-626

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抄録

目的 医療観察法の運用から11年が経過し法処遇終了者が多くなってきている現状にある。また,精神保健福祉法の改正等,保健所を取り巻く環境が変化する中で,法対象者の地域支援の現状と課題について調査した。

方法 全国の494保健所に対し,平成26年 9 月に自記式質問紙法による郵送調査を行った。調査内容は保健所の法対象者の支援経験,事例数,法対象者支援に関する研修の受講状況,地域支援に関する課題項目として,①関係機関連携,役割に関する課題,②法対象者の有する特徴からみた課題,③保健所スタッフの力量や地域資源の課題の23項目と支援課題に関する自由記載を求めた。各項目の記述統計量を求め,自由記述内容は内容分析を行った。

結果 回収数329(回収率66.6%),支援経験有80.9%,支援事例総数1,205人,保健所の平均支援数4.5人。精神保健判定等養成研修受講者の有9.6%,管内における司法精神医療や地域処遇に関する研修有は23.6%であった。「行政機関支援者の再犯防止の支援に関するスキル不足」,「法処遇終了後の対応,支援体制に不安がある」,「被害者支援,同じ町で生活するにあたって,被害者への配慮がいる」,「手厚いケアが必要なので保健所のマンパワーが不足」,「発達障害,アルコール等,統合失調症以外の対象者の処遇が難しい」,「処遇困難な事例に対する丁寧なかかわりをする時間がない」の項目で課題有が80%を超えた。自由記載内容は【地域処遇における課題】,【法処遇終了後の課題】,【医療・福祉資源の不足】,【制度上の課題】,【医療観察法の効用】の 5 つのカテゴリに分類された。

結論 法対象者の支援に関する課題として,地域支援者の力量形成のためには,都道府県単位での基礎的な研修を継続,社会復帰調整官の調整能力の強化,法処遇終了後の再犯防止に関する警察との連携,社会復帰のための居住施設や利用サービスに関する指定医療機関との調整,高齢介護,知的・発達障害者の関係課に対する研修や啓発の必要性が明らかになった。制度上の課題として事例に応じた処遇期間の延長の判断基準の明確化が必要である。

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