日本公衆衛生雑誌
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63 巻, 10 号
選択された号の論文の4件中1~4を表示しています
論壇
  • 土井 由利子
    2016 年 63 巻 10 号 p. 599-605
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/10/23
    ジャーナル フリー

     医療の質を担保するためには,エビデンスに基づく医療 Evidence-based Medicine (EBM)が基本となる。そして,EBM での推奨グレードを満たすためには,システマティックレビューにより収集・選択された複数の個別研究の集積と,メタアナリシスによる分析・評価が必須とされる。一方,システマティックレビューに基づくこの方法では,未公表・未報告の研究が含まれず,メタアナリシスへの公表・報告バイアスの影響が懸念される。このバイアスを軽減するため,すべての臨床試験が事前登録されることとなり,世界保健機関 World Health Organization (WHO)は臨床試験検索エンジンポータルサイト International Clinical Trials Registry Platform (ICTRP)を2007年に開設し,WHO の基準を満たした,日本(Japan Primary Registries Network (JPRN))を含む国・地域から登録データの提供を受け,公開している。米国のClinicalTrials.govでは,事前登録と併せ,Food and Drug Administration Amendments Act Section 801 の対象となる臨床試験の結果についても,標準化されたデータとして公表している。しかし,日本を含め世界の現状をみると,結果の公表が進んでいるとは言い難い。2015年 4 月14日,WHO は新たな声明(WHO Statement on Public Disclosure of Clinical Trial Results)を発表し,現行および過去の臨床試験に対し,公表の方法・期限などより具体的な勧告を行った。今後,WHO の主導の下,臨床試験の事前登録・結果公表がさらに進み,公表・報告バイアスが軽減されるものと期待される。日本においても,この新たな国際標準に準拠した,結果公表を含む,臨床試験登録データベースの整備について,早急に対応を検討する必要があると思われる。

資料
  • 林 芙美, 小澤 啓子, 川畑 輝子, 武見 ゆかり
    2016 年 63 巻 10 号 p. 606-617
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/10/23
    ジャーナル フリー

    目的 全国健康保険協会(以下,「協会けんぽ」とする)の被保険者に向けた特定保健指導の良好な実績につながる特徴を明らかにし,今後の特定保健指導の実施計画や人材育成に対する示唆を得ることを目的に,質的な検討を行った。

    方法 平成26年11月~翌年 1 月,協会けんぽ本部から紹介された都道府県支部10か所において契約保健師64人を対象に,1 グループ90分のフォーカス・グループインタビュー(FGI)を実施した。また,質問紙調査により参加者の属性等を把握した。分析においては,平成23年度から25年度にかけての実績が低調だった 1 支部を除く 9 支部を対象とし,実績が良い状態を維持している支部(維持パターン)と実績が上向いている支部(向上パターン)に分けて検討を行った。各グループのインタビューの記録をもとに作成した逐語録をもとにオープン・コーディングを行い,保健師個人と支部のそれぞれの領域における取り組みやニーズ等を抽出した。得られたコードは【資質】,【特定保健指導の方法(全般)】,【食生活支援の方法】,【成功要因】,【支部体制】,【研修・スキルアップ】,【事業所へのアプローチ】,【過去の取り組み】の主要カテゴリーに集約し,サブカテゴリーを各支部からの出現頻度により重み付けした。

    結果 9 支部56人の保健師(全員女性)を分析対象とした。保健師個人の領域として両パターンに共通していたのは,【特定保健指導の方法(全般)】の〈大事にしていること〉として“信頼関係の構築”“物質的な環境づくり”“本人主体の生活習慣の振り返り”であった。また,事前の質問紙調査では研修の機会を「ある」と回答した者が多かったが,FGIでは【研修・スキルアップ】の〈要望〉として“研修機会の増加”や“研修内容の充実”が共通したカテゴリーとして抽出された。

    結論 特定保健指導において,良好な成果を支える共通要因として保健師の取り組み工夫がいくつか示されたが,更なる研修の充実等が組織全体での体制強化において不可欠であることが分かった。今後は,低調している支部も含めた検証等へと研究を発展させていく必要がある。

  • 原田 小夜, 辻本 哲士, 角野 文彦, 中原 由美
    2016 年 63 巻 10 号 p. 618-626
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/10/23
    ジャーナル フリー

    目的 医療観察法の運用から11年が経過し法処遇終了者が多くなってきている現状にある。また,精神保健福祉法の改正等,保健所を取り巻く環境が変化する中で,法対象者の地域支援の現状と課題について調査した。

    方法 全国の494保健所に対し,平成26年 9 月に自記式質問紙法による郵送調査を行った。調査内容は保健所の法対象者の支援経験,事例数,法対象者支援に関する研修の受講状況,地域支援に関する課題項目として,①関係機関連携,役割に関する課題,②法対象者の有する特徴からみた課題,③保健所スタッフの力量や地域資源の課題の23項目と支援課題に関する自由記載を求めた。各項目の記述統計量を求め,自由記述内容は内容分析を行った。

    結果 回収数329(回収率66.6%),支援経験有80.9%,支援事例総数1,205人,保健所の平均支援数4.5人。精神保健判定等養成研修受講者の有9.6%,管内における司法精神医療や地域処遇に関する研修有は23.6%であった。「行政機関支援者の再犯防止の支援に関するスキル不足」,「法処遇終了後の対応,支援体制に不安がある」,「被害者支援,同じ町で生活するにあたって,被害者への配慮がいる」,「手厚いケアが必要なので保健所のマンパワーが不足」,「発達障害,アルコール等,統合失調症以外の対象者の処遇が難しい」,「処遇困難な事例に対する丁寧なかかわりをする時間がない」の項目で課題有が80%を超えた。自由記載内容は【地域処遇における課題】,【法処遇終了後の課題】,【医療・福祉資源の不足】,【制度上の課題】,【医療観察法の効用】の 5 つのカテゴリに分類された。

    結論 法対象者の支援に関する課題として,地域支援者の力量形成のためには,都道府県単位での基礎的な研修を継続,社会復帰調整官の調整能力の強化,法処遇終了後の再犯防止に関する警察との連携,社会復帰のための居住施設や利用サービスに関する指定医療機関との調整,高齢介護,知的・発達障害者の関係課に対する研修や啓発の必要性が明らかになった。制度上の課題として事例に応じた処遇期間の延長の判断基準の明確化が必要である。

公衆衛生活動報告
  • 蔭山 正子, 横山 恵子, 小林 清香, 中村 由嘉子
    2016 年 63 巻 10 号 p. 627-636
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/10/23
    ジャーナル フリー

    目的 精神障害者の地域における生活を継続するためには,身近な家族への支援が欠かせない。近年,家族会を中心に精神障害者家族ピア教育プログラム「家族による家族学習会」が普及している。本プログラムは,家族と専門家からなる企画委員が中心となって全国展開している。2015年度は,ある企画委員家族の働きかけによって,家族会が精神科病院の中に入り,プログラムを実施する試みが実現した。本報告は,企画委員の家族がどのように病院に働きかけ,プログラムがどのように病院で採用され,継続の判断がされたのか,そのプロセスを検討し,採用や継続に関連する要因を明らかにすることを目的とした。

    方法 ヘルスケア提供組織におけるイノベーション普及の理論枠組みを基盤としたケーススタディとした。プログラムを採用した精神科病院 2 か所で主にプログラムに関与した職員およびプログラムを実施した家族にインタビューを実施した。インタビューデータは,逐語録を意味のあるまとまりごとに区切り,理論枠組みに沿って分類し,採用・継続プロセスを比較した。

    結果 企画委員家族が日頃から病院と関係性を構築していたこと,病院のニーズを的確に把握したこと,病院と家族会のニーズが両立していたことは理論枠組みと一致していた。入院患者の家族のニーズに応えたいという企画委員家族の強い動機が今回特徴的だった。また,既存プログラムとの違いがわかりにくかったため,企画委員家族が院内で事前学習会を開催し,病院職員にプログラムを理解してもらう努力をしていた。家族会と病院が定期的に会う会議が開催されていたこともプログラムの採用に影響していた。プログラムの継続に関しては,両病院の精神保健福祉士から,参加してほしい非協力的な家族には参加してもらえないという対象像の不一致を指摘され,継続実施の判断に影響を与えていた。参加家族15人中,発病後経過年数が 1 年以内の患者の家族 2 人と入院患者の家族 4 人が含まれていた。

    結論 家族会が病院に出向いてプログラムを実施することで,発病間もない患者の家族や入院患者の家族といった従来の方法ではアプローチが難しかった家族を支援する機会になり得る。プログラムの採用には,日頃から病院と関係性を構築し,社会的役割を果たそうとする家族の熱意と地道な努力が関連していた。プログラムの継続には,患者の関わりに消極的な家族にもプログラムに参加してもらうことが重要だった。

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