日本公衆衛生雑誌
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原著
介護予防事業の身体的・精神的健康に対する効果に関する実証分析:網走市における高齢者サロンを事例として
今堀 まゆみ泉田 信行白瀬 由美香野口 晴子
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2016 年 63 巻 11 号 p. 675-681

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抄録

目的 本稿では,介護予防事業に参加している高齢者の属性を明らかにし,介護予防事業の一環として北海道網走市が実施している高齢者サロンが,高齢者の身体的・精神的な健康を改善するという仮説の検証を行う。

方法 本稿では,当該自治体において2013年と2014年の 2 月 1 日に実施された「高齢者の生活と健康に関する調査」の個票を用いる。網走市の介護予防事業(通称「ふれあいの家」事業)の参加者のうち,協力が得られ,かつ当該調査に対し,2013年と2014年の両年に回答した者を参加群(N=157)とする。非参加群は,網走市在住の65歳以上高齢者から無作為抽出した者のうち,同じく当該調査に両年とも回答をした者(N=252人)とする。分析方法は,参加群・非参加群間での選択バイアスを調整するため,傾向スコア法を用いた。共変量は,2013年の性別・年齢・同居家族の有無・配偶者の有無・就労の有無・1 カ月の生活費・最短の「ふれあいの家」までの距離・主観的健康感・老研式活動能力指標・K6・通院の有無とした。アウトカムは,2014年における,主観的健康感・老研式活動能力指標・K6・通院の有無である。

結果 ベースラインである2013年の基本属性を見ると,非参加群と比べ,参加群では,「ふれあいの家」までの距離が近く,年齢層が高い女性が多い。また,1 カ月の生活費が 2 万円ほど高い傾向にある。しかし,同居家族の有無や配偶者の有無については,両群で有意差はなかった。なお,健康指標に関しては,参加群の方が非参加群より健康的であることがわかった。傾向スコア法による推定の結果,介護予防事業は,参加群の方が非参加群と比べ,2014年における K6 が1.713ポイント改善していることから,網走市における当該事業が,参加者の精神面での健康には寄与していることが明らかになった。

結論 本稿が得た結果から,網走市における,コミュニティの構成員を主体とする介護予防事業には一定の効果があることがわかった。これは,社会参加によって築かれた近隣住民との良好な関係が精神面で良い影響を与えているのかもしれない。他方,身体的な健康に対する効果については観察されなかったが,本稿の観察期間は 2 年間と極めて短期間であり,また,当該介護事業が住民主体の活動であることから,中・長期的な専門家による介入と経過観察が必要である可能性が示唆された。

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© 2016 日本公衆衛生学会
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