日本公衆衛生雑誌
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63 巻, 11 号
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原著
  • 伊藤 智子, 谷澤 薫平, 川上 諒子, 樋口 満
    2016 年 63 巻 11 号 p. 653-663
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/12/08
    ジャーナル フリー

    目的 食事と健康との関連において食事パターンを用いた検討が行われているが,食事パターンを構成する複数の栄養素について,適正な量が摂取されているかを検討した報告は少ない。そこで,本研究では,主成分分析により中高年男性における代表的な食事パターンを同定し,各食事パターンと栄養素摂取量との関連を検討した。さらに,微量栄養素について,食事摂取基準(2010年版)で推奨されている指標を用いて複数の微量栄養素が適正量に摂取されているかを数値化して簡易的に評価し,食事パターンとの関連を検討することを目的とした。

    方法 40歳から79歳の中高年男性229人を対象として,簡易型自記式食事歴法質問票 brief-type self-administered diet history questionnaire(BDHQ)による栄養調査を行った。52の食品および飲料の摂取量から主成分分析を行い,食事パターンを同定した。BDHQ によって推定された微量栄養素のうち,食事摂取基準値が策定されている21種類の微量栄養素が適正量に摂取されているかを数値化して評価するために Dietary reference intakes score(DRIs-score)を作成した。各食事パターンにおいて複数の微量栄養素が適正量摂取されているかを検討するために,各食事パターンの主成分得点と DRIs-score において Spearman の順位相関係数を求めた。

    結果 主成分分析の結果,3 つの食事パターンが同定された。第 1 食事パターンは野菜,果物,海草,きのこ,いも類が多く,ご飯(めし)が少ない「副菜型」,第 2 食事パターンはアルコールが多い「晩酌型」,第 3 食事パターンは果物・乳製品・菓子類が多い「間食型」とした。第 1 食事パターンの「副菜型」において,主成分得点と DRIs-score を構成するすべての微量栄養素との間に有意な相関関係が認められ,DRIs-score との間には有意な正の相関関係(ρ=0.782, P<0.001)が認められた。

    結論 第 1 食事パターンの「副菜型」の主成分得点は,日本人の食事摂取基準をもとに複数の微量栄養素の摂取が適正量であるかを評価した DRIs-score と相関し,第 1 食事パターンの重み付けが高い程,微量栄養素の栄養バランスが良好であることが示唆された。

  • 酒井 太一, 大森 純子, 高橋 和子, 三森 寧子, 小林 真朝, 小野 若菜子, 宮崎 紀枝, 安齋 ひとみ, 齋藤 美華
    2016 年 63 巻 11 号 p. 664-674
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/12/08
    ジャーナル フリー

    目的 向老期世代における新たな社会関係の醸成と保健事業での活用を目指し,“地域への愛着”を測定するための尺度を開発することを目的とした。

    方法 “地域への愛着”の概念を明らかにした先行研究に基づき合計30項目を“地域への愛着”の尺度案とした。対象は東京近郊に位置する A 県 B 市の住民とし住民基本台帳データより,50~69歳の地域住民から居住エリア・年代・男女比に基づき1,000人を多段階無作為抽出し,無記名自記式質問用紙を郵送にて配布・回収した。収集されたデータを用いて尺度の計量心理学的検討を行った。

    結果 583人から有効回答が得られた(有効回答率58.3%)。項目分析では項目の削除はなかった。次いで因子分析を行い,因子負荷量が0.40未満の 2 項目,複数の因子にまたがって0.40以上であった 3 項目,因子間相関が0.04~0.16と低くかつ項目数が 2 項目と少なかった因子に含まれる 2 項目の計 7 項目を削除し 4 因子構造23項目を採用し尺度項目とした。各因子は“生きるための活力の源”,“人とのつながりを大切にする思い”,“自分らしくいられるところ”,“住民であることの誇り”と命名した。

     “地域への愛着”尺度全体の Cronbach の α 係数は α=0.95であり内的整合性が確認された。既存のソーシャル・サポートを測定する尺度と相関をみたところ統計学的に有意な相関があり(P<0.001)基準関連妥当性も確認された。また,共分散構造分析による適合度指標も十分な値を示した。

    結論 開発した尺度は“地域への愛着”を測定する尺度として信頼性・妥当性を有すると考えられた。

  • 今堀 まゆみ, 泉田 信行, 白瀬 由美香, 野口 晴子
    2016 年 63 巻 11 号 p. 675-681
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/12/08
    ジャーナル フリー

    目的 本稿では,介護予防事業に参加している高齢者の属性を明らかにし,介護予防事業の一環として北海道網走市が実施している高齢者サロンが,高齢者の身体的・精神的な健康を改善するという仮説の検証を行う。

    方法 本稿では,当該自治体において2013年と2014年の 2 月 1 日に実施された「高齢者の生活と健康に関する調査」の個票を用いる。網走市の介護予防事業(通称「ふれあいの家」事業)の参加者のうち,協力が得られ,かつ当該調査に対し,2013年と2014年の両年に回答した者を参加群(N=157)とする。非参加群は,網走市在住の65歳以上高齢者から無作為抽出した者のうち,同じく当該調査に両年とも回答をした者(N=252人)とする。分析方法は,参加群・非参加群間での選択バイアスを調整するため,傾向スコア法を用いた。共変量は,2013年の性別・年齢・同居家族の有無・配偶者の有無・就労の有無・1 カ月の生活費・最短の「ふれあいの家」までの距離・主観的健康感・老研式活動能力指標・K6・通院の有無とした。アウトカムは,2014年における,主観的健康感・老研式活動能力指標・K6・通院の有無である。

    結果 ベースラインである2013年の基本属性を見ると,非参加群と比べ,参加群では,「ふれあいの家」までの距離が近く,年齢層が高い女性が多い。また,1 カ月の生活費が 2 万円ほど高い傾向にある。しかし,同居家族の有無や配偶者の有無については,両群で有意差はなかった。なお,健康指標に関しては,参加群の方が非参加群より健康的であることがわかった。傾向スコア法による推定の結果,介護予防事業は,参加群の方が非参加群と比べ,2014年における K6 が1.713ポイント改善していることから,網走市における当該事業が,参加者の精神面での健康には寄与していることが明らかになった。

    結論 本稿が得た結果から,網走市における,コミュニティの構成員を主体とする介護予防事業には一定の効果があることがわかった。これは,社会参加によって築かれた近隣住民との良好な関係が精神面で良い影響を与えているのかもしれない。他方,身体的な健康に対する効果については観察されなかったが,本稿の観察期間は 2 年間と極めて短期間であり,また,当該介護事業が住民主体の活動であることから,中・長期的な専門家による介入と経過観察が必要である可能性が示唆された。

  • 木村 美佳, 守安 愛, 熊谷 修, 古名 丈人
    2016 年 63 巻 11 号 p. 682-693
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/12/08
    ジャーナル フリー

    目的 東京都墨田区では,2005年から一般高齢者を対象とした一次予防事業として,運動,栄養,口腔機能の複合プログラム「TAKE10!®」を活用した介護予防教室「すみだテイクテン」を開催している。本研究では,2008年以降の二つの事業対象者(一次予防と二次予防)が区別されることなく参加した事業の有用性を検証する。

    方法 「すみだテイクテン」は,全体講演会と区内 4~6 会場で 2 週間に 1 回開催される全 5 回の複合プログラムを提供する講習会で構成されている。解析対象者は2008年から2013年に「すみだテイクテン」に参加登録をした者のうち,事業前後の自記式の質問紙がそろった402人とした。主要アウトカムは質問紙による調査から得られた食習慣(10食品群の摂取頻度,食品摂取の多様性得点(Dietary Variety Score: DVS),食品摂取頻度スコア(Food Frequency Score: FFS)),体操実施頻度と体力測定結果(5 m 通常歩行時間,5 m 最大歩行時間,握力,開眼片足立ち,Timed Up & Go)とした。副次アウトカムは,質問紙による調査から得られた生活機能(老研式活動能力指標),食欲,体操以外の運動実施頻度,主観的健康感,社会活動(外出,近隣者との会話,同年代のグループ活動,ボランティア活動の頻度)とし,これらのアウトカムについて事業前後の比較を行った。また,事業対象者別にも解析を行い,さらに,同一世帯内でのプログラムの共有の可能性を検討するため,通常調理を行うか否かで対象者を 2 群に分け,食習慣について解析を行った。

    結果 対象者の事業前後のデータを比較すると,主要アウトカム,副次アウトカムともすべての項目で有意な改善が認められ,食習慣や運動習慣のみならず,生活機能や主観的健康感,社会活動にも改善が認められた。二次予防事業対象者においても,主要アウトカムについて一次予防対象者とほぼ同様な結果が得られ,通常調理を行わない対象者の食習慣についても有意な改善が認められた。

    結論 これらの結果は,両事業対象者を区別せずに事業を行うことの有用性を示唆しており,さらには,TAKE10!®のような複合プログラムが地域の介護予防を目的としたポピュレーションアプローチとして活用価値のあることを示唆している。

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