日本公衆衛生雑誌
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原著
顔面および口腔内の過敏症状を有する要介護高齢者の口腔機能および栄養状態に関する実態調査
白部 麻樹中山 玲奈平野 浩彦小原 由紀遠藤 圭子渡邊 裕白田 千代子
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2017 年 64 巻 7 号 p. 351-358

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抄録

目的 介護の現場において口腔のケア実施を困難にしている要因の一つとして,拒否とみられる行動がある。その行動の背景因子として,過敏症状が挙げられる。顔面や口腔内に過敏症状を有すると,口唇に力が入り口を開けられない,食いしばりなどの行動につながるため,口腔のケア実施を困難にしていると考えられる。過敏症状については障がい児を対象とした報告は多いが,要介護高齢者を対象とした報告が少なく,その実態も明らかになっていない現状がある。そこで本調査は,顔面および口腔内に過敏症状を有する要介護高齢者の日常生活動作を含む基礎情報,口腔および栄養状態の実態を把握することを目的とした。

方法 都内の某特別養護老人ホーム入居者80人(男性8人,女性72人,平均年齢91.1±6.2歳)を対象とした。調査項目は,過敏症状の有無,性,年齢,要介護度,認知症高齢者の日常生活自立度(生活自立度)などの基礎情報,嚥下状態,むせ,口腔内残留物の有無などの口腔に関する情報,血清アルブミン値(Alb),Body Mass Index(BMI)などの栄養に関する情報とした。過敏症状の有無は,顔面(額,頬,口の周囲)および口腔内(頬粘膜,口腔前庭,口蓋)を調査部位とし,順に顔面は手掌,口腔内は人差し指の腹で触れて評価した。触れた部位を中心に局所的あるいは全身的に痙攣を生じた場合や,口唇や顔面を硬直させて顔をゆがめるなどの変化があらわれたものを「あり」とした。過敏症状の有無により2群に分類し,χ2検定およびMann-WhitneyのU検定を用いて検討を行った。なお本調査は東京医科歯科大学歯学部倫理審査委員会の承認を受けて実施した(第972号)。

結果 過敏症状を有する者は18人(22.5%)であった。過敏症状の有無による比較の結果,要介護度,生活自立度,むせの有無,口腔内残留物の有無,嚥下状態,Alb,BMIにおいて有意差が認められた(P<0.05)。

結論 顔面や口腔内に過敏症状を有する者は,要介護度が高く,認知症高齢者の生活自立度が低下していることが明らかとなった。また,摂食嚥下機能,栄養状態が低下していることから,過敏症状に配慮した口腔のケア,栄養改善,食支援が必要であることが示唆された。

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