日本公衆衛生雑誌
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64 巻, 7 号
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原著
  • 白部 麻樹, 中山 玲奈, 平野 浩彦, 小原 由紀, 遠藤 圭子, 渡邊 裕, 白田 千代子
    2017 年 64 巻 7 号 p. 351-358
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/09/30
    ジャーナル フリー

    目的 介護の現場において口腔のケア実施を困難にしている要因の一つとして,拒否とみられる行動がある。その行動の背景因子として,過敏症状が挙げられる。顔面や口腔内に過敏症状を有すると,口唇に力が入り口を開けられない,食いしばりなどの行動につながるため,口腔のケア実施を困難にしていると考えられる。過敏症状については障がい児を対象とした報告は多いが,要介護高齢者を対象とした報告が少なく,その実態も明らかになっていない現状がある。そこで本調査は,顔面および口腔内に過敏症状を有する要介護高齢者の日常生活動作を含む基礎情報,口腔および栄養状態の実態を把握することを目的とした。

    方法 都内の某特別養護老人ホーム入居者80人(男性8人,女性72人,平均年齢91.1±6.2歳)を対象とした。調査項目は,過敏症状の有無,性,年齢,要介護度,認知症高齢者の日常生活自立度(生活自立度)などの基礎情報,嚥下状態,むせ,口腔内残留物の有無などの口腔に関する情報,血清アルブミン値(Alb),Body Mass Index(BMI)などの栄養に関する情報とした。過敏症状の有無は,顔面(額,頬,口の周囲)および口腔内(頬粘膜,口腔前庭,口蓋)を調査部位とし,順に顔面は手掌,口腔内は人差し指の腹で触れて評価した。触れた部位を中心に局所的あるいは全身的に痙攣を生じた場合や,口唇や顔面を硬直させて顔をゆがめるなどの変化があらわれたものを「あり」とした。過敏症状の有無により2群に分類し,χ2検定およびMann-WhitneyのU検定を用いて検討を行った。なお本調査は東京医科歯科大学歯学部倫理審査委員会の承認を受けて実施した(第972号)。

    結果 過敏症状を有する者は18人(22.5%)であった。過敏症状の有無による比較の結果,要介護度,生活自立度,むせの有無,口腔内残留物の有無,嚥下状態,Alb,BMIにおいて有意差が認められた(P<0.05)。

    結論 顔面や口腔内に過敏症状を有する者は,要介護度が高く,認知症高齢者の生活自立度が低下していることが明らかとなった。また,摂食嚥下機能,栄養状態が低下していることから,過敏症状に配慮した口腔のケア,栄養改善,食支援が必要であることが示唆された。

  • 土屋 瑠見子, 吉江 悟, 川越 正平, 平原 佐斗司, 大西 弘高, 村山 洋史, 西永 正典, 飯島 勝矢, 辻 哲夫
    2017 年 64 巻 7 号 p. 359-370
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/09/30
    ジャーナル フリー

    目的 在宅医療の推進を目的に作成された「在宅医療推進のための地域における多職種連携研修会(以下:在宅医療推進多職種連携研修会)」を受講した多職種における研修プログラムの短期的効果を検証した。

    方法 2012年3月から2013年1月に,東京都近郊の3地域(千葉県柏市・松戸市,東京都大田区大森地区)にて延べ4回の在宅医療推進多職種連携研修会を実施した。本研修会の目的は,「開業医が在宅医療に従事するための動機づけとなること」,「地域における多職種チームビルディングを促進すること」であった。研修会の受講者は,各地域の職種団体の推薦により選ばれた開業医,訪問看護師,介護支援専門員等の在宅医療・介護に関わる多職種であり,各職種が含まれるよう配分されたグループにて延べ1.5日の研修会を行った。研修評価は郵送による自記式質問紙調査を行い,研修内容に関する知識・実践力(26項目,4件法),在宅医療に対する全般的な意識(4項目,6件法),連携活動状況(13項目,4件法)について研修受講前後の変化を検証した。分析対象者は,受講前・受講後の調査票が回収でき,「主たる職種」が欠損していない者すべてとした。分析の際には,開業医と開業医以外の職種に分け,Wilcoxonの符号付き順位和検定,対応のあるt検定を行い,合わせて効果量を算出した。

    結果 研修プログラム受講者256人のうち,有効回答が得られたのは162人(63.3%)であり,開業医は19人(11.7%),開業医以外の職種は162人(88.3%)であった。研修プログラムを受講することにより,開業医・開業医以外の職種共に専門職連携協働(IPW)に関する知識が向上し,在宅医療に対する具体的イメージが開業医では向上する傾向を示し,開業医以外の職種では向上した。連携活動状況は「業務協力」,「交流」の2因子で構成され,開業医以外の職種における開業医との「交流」が向上し,開業医間,開業医以外の職種間の「業務協力」が向上した。

    結論 開業医が在宅医療に従事するための動機付けという目的に対し,本研修プログラムの受講効果は限定的であったが,開業医が在宅医療に対する具体的イメージを持つことにつながっていた。加えて在宅医療・介護に従事する専門職間の連携活動を促進するきっかけ作りとしては,各地域の実情に合わせた活用が可能と考えられた。

  • 相羽 美幸, 太刀川 弘和, 仲嶺 真, 高橋 晶, 野口 晴子, 高橋 秀人, 田宮 菜奈子
    2017 年 64 巻 7 号 p. 371-383
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/09/30
    ジャーナル フリー

    目的 ソーシャル・キャピタル(SC)は,2つの下位要素(下位要素1:構造的フォーマル,構造的インフォーマル,認知的;下位要素2:結合型,橋渡し型)から構成される。本研究では,中高年者縦断調査のデータから,SCの指標を作成し,その妥当性と信頼性を検証した。

    方法 中高年者縦断調査の調査票から,SCを測定している調査項目を抽出した。調査対象者は第1回調査(2005年)時点で50~59歳の男女を全国から層化無作為抽出した。第6回調査からSCの項目内容が変更されたため,本研究では第1回(n=34,240)と第2回(n=32,285)のデータをPhase1,第6回(n=26,220)と第7回(n=25,321)のデータをPhase2として抽出した。下位要素1の構造的フォーマル指標は,6種類の活動において「町内会・自治会」および「NPO・公益法人団体」の選択された数をカウントして算出した。構造的インフォーマル指標は,「家族や友人と」および「同僚と」の選択された数をカウントして算出した。認知的指標は,社会参加活動(Phase2では地域行事,高齢者支援,その他の社会参加活動)の満足度を用いた。下位要素2の結合型指標は,6種類の活動において「家族や友人と」,「同僚と」,「町内会・自治会」の選択された数をカウントして算出した。橋渡し型指標は,「NPO・公益法人団体」の選択された数をカウントして算出した。

    結果 内容的妥当性として,専門家による合議の上,SCの構成要素に基づき,抽出された項目を下位要素に分類した。その結果,中高年者縦断調査の調査票は,各下位要素をすべて測定可能な項目で構成されていた。SCを独立変数,各健康指標を従属変数とした階層線形モデルを用いて収束的妥当性を検討した。その結果,個人レベルのすべてのSC指標が主観的健康感に有意な正の影響を及ぼしていた。一方,脳卒中については,集団レベルの認知的指標と構造的フォーマル指標が有意な抑制的影響を及ぼしていた。心臓病とがんについては,個人レベルと集団レベルのどちらも有意な影響がみられなかった。信頼性の検討のために,Phase1(第1回—第2回)とPhase2(第6回—第7回)においてマルチレベル相関分析を行った結果,相関係数は0.392-0.999であった。

    結論 内容的妥当性の検証の結果,中高年縦断調査を用いて指標を作成することの妥当性が確認された。階層線形モデルにより収束的妥当性が部分的に確認され,マルチレベル相関分析により集団レベルにおいて十分な再検査信頼性が確認された。

資料
  • 堀口 美奈子, 國分 恵子, 森 亨
    2017 年 64 巻 7 号 p. 384-390
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/09/30
    ジャーナル フリー

    目的 要介護認定調査結果を用いて高齢者の経時的な認知機能の変化を明らかにし,高齢者のケアに必要な支援を検討することを目的とした。

    方法 A市で2006年度に介護保険認定の申請を行った290人のうち,2010・2011年度に更新申請を行った121の調査データを対象とした。調査内容は,性別,2006年度申請時の年齢階級および『認知症高齢者の日常生活自立度判定基準(当初認定自立度)』の他,認知機能に関する調査項目の群から7項目を用いた。分析では,各年の認知機能に関する調査項目を基に対象者個人を改善・維持群,悪化群に分類した。そのうえで,年齢階級,性別,当初認知症自立度,個人の認知機能に関する調査項目毎のスコア変化幅について検定し,分析を行った。

    結果 年齢階級による認知機能の悪化は,有意な関連を示した。性別では,悪化率に有意の性差はみられなかった。当初認知症自立度では,新規申請時の自立度のランクが重いと,その後の悪化率が有意に高くなった。そして,悪化率との関連を個別に検討してきた年齢階級,性別,当初認知症自立度を説明変数,悪化率を目的変数とする多重ロジスティック回帰分析を行っても,悪化率に有意な影響を与えているのは年齢と当初認知症自立度で,性には有意な影響はなかった。また,7項目の認知機能区分の間の変化の程度を認知機能区分(7区分)と個人(121人)の2要因と同時に検討したところ,両要因とも認知機能の変化に有意の変動因と判定された。また,当初と5年後の間のスコアの差を認知機能別に平均値で見たものでみると7項目の中で『毎日の日課を理解』は最も悪化していたが,『自分の名前を言う』は,最も悪化しにくかった。

    結論 要介護認定調査における認知機能は,男女に関係なく,年齢が上がるほど,新規申請時の認知症自立度等級が高いほどより悪化しやすい。ケアを行う際には,高齢者の名前を呼んだり,名前を言ってもらう等を取り入れる,日課を理解しやすいよう,生活行為を区切って伝えていくことの必要性が示唆された。

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