日本公衆衛生雑誌
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海外における減塩政策による循環器疾患予防に関するシミュレーションモデルを用いた医療経済的評価研究の現況
加藤 浩樹池田 奈由杉山 雄大野村 真利香由田 克士西 信雄
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2021 年 68 巻 9 号 p. 631-643

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抄録

目的 日本では高齢化の進展とともに,循環器疾患に関連する医療と介護に要する社会保障費への国民負担がより一層増大すると予想されている。栄養政策は,国民の食生活改善を通じて循環器疾患を予防する効果が期待される。しかしその費用対効果の評価は,日本ではこれまでに行われていない。本研究は,減塩政策による循環器疾患予防に関する海外の医療経済的評価研究を概括し,日本の栄養政策の公衆衛生学的効果と社会保障費抑制効果の評価手法を構築するための基礎資料とすることを目的とした。

方法 循環器疾患予防介入の医療経済的評価に関する代表的なシミュレーションモデルとして,循環器疾患政策モデル(Cardiovascular Disease Policy Model),IMPACTモデル(IMPACT Coronary Heart Disease Policy and Prevention Model),米国IMPACT食料政策モデル(US IMPACT Food Policy Model),ACEアプローチ(Assessing Cost-Effectiveness approach to priority-setting)およびPRISM(Prevention Impacts Simulation Model)を抽出した。各モデルを応用してポピュレーションアプローチによる国レベルでの減塩政策の費用と効果を評価した海外の原著論文を収集し,モデルの概要,構造および応用研究を概括した。

結果 5つのモデルの構造としてマルコフ・コホートシミュレーション,マイクロシミュレーション,比例多相生命表,システム・ダイナミクスに基づき,減塩政策による食塩摂取量と血圧の低下を通じて循環器疾患の予防に至る過程がモデルに組み込まれていた。これらのモデルを応用した豪州,英国および米国の研究では,食品業界による義務または任意の市販加工食品中の食塩含有量の低減を中心に,健康増進キャンペーン,容器包装前面の食塩量表示等の減塩政策の費用と効果について,10~30年または生涯にわたる長期のシミュレーションによる評価が行われていた。

考察 海外では国の減塩政策による循環器疾患予防の費用と効果について,シミュレーションモデルに基づく医療経済的評価から得た科学的根拠を発信している。日本も減塩政策を中心にシミュレーションモデルを活用し,栄養政策の立案・評価に役立てることが期待される。

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