日本公衆衛生雑誌
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高齢期における就労と主観的健康感の縦断的関連:システマティックレビュー
渡邉 彩村山 洋史高瀬 麻以杉浦 圭子藤原 佳典
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2022 年 69 巻 3 号 p. 215-224

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抄録

目的 少子高齢化の進行による労働力不足が課題となる中,高齢者による就労を促進するための諸制度や職場環境の整備が急速に進められている。高齢者が積極的に労働市場に参入することへの期待が高まる中,高齢期における就労と高齢者の心身の健康との関連や課題を明らかにする必要がある。中でも,主観的健康感は,生活機能の低下や健康寿命の延伸にも強く関連し,高齢者の全体的な健康状態を捉えるための重要な健康指標である。そこで本研究は,高齢期における就労と主観的健康感との縦断的関連について,システマティックレビューの手法を用いて整理することを目的とした。

方法 文献検索のデータベースは,PubMed, PsycINFO, CINAHL,医学中央雑誌を用いた。「高齢者」「就労」および「主観的健康感」をキーワードとして検索を行い,ⅰ)60歳以上の者を研究対象としていること,ⅱ)就労を独立変数,主観的健康感を従属変数として設定していること,ⅲ)縦断研究であること,を採択基準とした。採択された文献の質評価は,観察研究の質の評価法であるNewcastle-Ottawa Scaleを用いた。

結果 最終的に,5件が採択され,4件が日本の研究,1件はアメリカの研究であった。5件のうち3件は,高齢期に就労している者は,非就労の者に比べて主観的健康感が高いことを報告していた。質評価の結果,5件とも6点あるいは7点(9点満点)であり,いずれも一定の水準を満たしていた。5件のうち2件は,高齢期の就労と主観的健康感の間に有意な関連は認められなかった。

結論 本研究により,高齢期における就労と主観的健康感との間に一定の関連があることが示唆された。しかし,その効果を縦断的に検討した文献はいまだ少ないことも明らかになった。今後,高齢期における就労がより一般的になることが見込まれる中,高齢者が積極的かつ安心して就労するためにも,就労が高齢者の健康に及ぼす影響やその機序について,さらなるエビデンスを伴った知見の集積が望まれる。

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