日本公衆衛生雑誌
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原著
都心部高齢者の孤立死の背景にある課題
木村 博子
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2022 年 69 巻 6 号 p. 424-434

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抄録

目的 都心部において増加する高齢者の孤立死の背景にある課題を明らかにすることを目的とした。

方法 国に東京都23区内A区の2016年の人口動態調査に係る調査票情報の提供の申出を行った。死亡票の記載項目には,死亡診断書と死体検案書の区別はない。しかし,監察医制度のある東京都23区では,死亡診断書または死体検案書を記載した医師の所属施設等が検案を実施する東京都監察医務院等の場合,死体検案書と判定することが可能である。病院・診療所等の記載がある場合は死亡診断書とみなした。自宅死および病院死のうち検案となった病死と,在宅患者訪問診療等により死亡診断書が作成された「自宅看取り死」について,死因,男女別,年齢,配偶者の有無等との関連を記述統計学的に分析した。

結果 2016年のA区の死亡件数4,429件のうち,613件が検案死と判定され,うち65歳以上の高齢者は436件(71.1%)であった。自宅死757件のうち,検案死は399件(52.7%)であり,うち病死は271件であった。自宅看取り死は358件(47.3%)であった。34歳以上の検案で病死と判明した自宅死268件の死亡年齢は,男性145件が73.6±11.9(平均値±標準偏差)歳,女性123件が79.5±11.4歳であった。同様の病院死133件の死亡年齢は,男性76件が73.6±14.7歳,女性57件が81.9±9.7歳であった。一方,自宅看取り死358件の死亡年齢は,男性172件が81.3±13.7歳,女性186件が87.0±10.8歳であり,検案死に比べて死亡年齢は有意に高かった。自宅検案死の病死の65.3%,病院検案死の病死の54.1%が虚血性心疾患等の突然死型の疾患によるものであり,自宅看取り死の64.6%は悪性新生物等によるものであった。検案で病死と判明した自宅死のうち,65歳以上の男性110件の65.5%,女性110件の87.3%が単身であり,男性27.3%,女性52.7%が死別,男性16.4%,女性9.1%が離別,男性21.8%,女性25.5%が未婚であった。

結論 都心部高齢者の孤立死には,主に突然死疾患の死因に加えて,女性では配偶者との死別,男性では死別以外に離別,男女ともに未婚という背景が影響していると考えられた。

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