日本公衆衛生雑誌
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地域包括支援センター看護職の高齢者と家族への支援過程での倫理的ジレンマと倫理的行動の特徴
斉藤 恵美子神崎 由紀表 志津子村田 加奈子
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2023 年 70 巻 12 号 p. 836-842

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抄録

目的 本研究は,地域包括支援センター看護職の高齢者と家族への支援過程での倫理的ジレンマと倫理的行動の特徴について明らかにすることを目的とした。

方法 東京都のホームページに公開されている地域包括支援センター449施設の看護職を対象として,各施設1人に無記名自記式質問紙郵送調査を実施した。調査項目は,年代,雇用資格,経験年数,倫理に関する組織等の有無,過去1年間に高齢者と家族の意思決定への支援で困難さ(以下,困難さ)を感じた事例数,高齢者と家族への支援過程での倫理的ジレンマとその状況,倫理的行動等とした。

結果 回収数143件(回収率31.8%)のうち,勤務先での雇用資格が看護職であった135人(有効回答率30.1%)を分析対象とした。年代は50歳代58人(43.0%),40歳代37人(27.4%)の順に多く,雇用資格は看護師104人(77.0%),保健師31人(23.0%)であった。倫理に関する組織等があると回答した人は52人(38.5%)であった。過去1年間に困難さを感じた事例数の平均(標準偏差)は,8.3(12.5)件であり,そのうち倫理的な判断が困難と感じた事例数の平均(標準偏差)は,4.1(6.0)件であった。また,倫理的ジレンマの認識について,「よくある」,「時々ある」と回答した人は113人(83.7%)であった。その状況として,回答が多かった項目は,「利用者と家族の意向が異なり,何を尊重すべきか困った」95人(84.1%),「利用者の意向と,専門職としての自分の判断が異なり,何を尊重すべきか困った」64人(56.6%),「利用者と近隣住民との意向が異なり,何を尊重すべきか困った」56人(49.6%)であった。倫理的行動として回答が多かった項目は,「個人情報が特定されるデータの管理方法が組織内で決められており,それを遵守している」116人(85.9%),「対象者の状況に合わせてわかりやすい説明をしている」115人(85.2%),「対象者の状況から自己決定が困難な場合には,複数の職員で支援方針を決めている」113人(83.7%)であった。

結論 看護職の80%以上が倫理的ジレンマを認識していた。それらの状況の特徴として,利用者と家族,利用者と専門職,利用者と近隣住民との意向が異なる場合が多かった。地域包括ケアに関する倫理的な課題については,さらに知見を蓄積する必要がある。

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