日本公衆衛生雑誌
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70 巻, 12 号
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総説
  • 青山 友子, 苑 暁藝, 松本 麻衣, 岡田 恵美子, 岡田 知佳, 瀧本 秀美
    2023 年 70 巻 12 号 p. 817-827
    発行日: 2023/12/15
    公開日: 2023/12/21
    [早期公開] 公開日: 2023/09/05
    ジャーナル フリー

    目的 集団における肥満ややせをモニタリングするために,疫学調査ではしばしば自己申告による身体計測値が用いられる。自己申告された身長と体重からBMI (body mass index)を求めると,集団における肥満(BMI≧25 kg/m2)の割合を過小評価することが知られている一方,やせ(BMI<18.5 kg/m2)の割合がどのように評価されるのかはよく理解されていない。そこで本研究では,肥満とやせの問題が共存する日本人において,自己申告による身体計測値の正確さに関するスコーピングレビューを行うことを目的とした。

    方法 PubMedとCiNii Researchを用いて,2022年までに英語または日本語で出版された文献を検索し,日本国内で行われた身長・体重・BMIの自己申告値と実測値を比較した研究を採用した。各研究より,研究デザインおよびmean reported errors(平均申告誤差=申告値の平均-実測値の平均)を抽出して表に整理した。また,BMIカテゴリによる違いも考慮した。

    結果 全国的なコホート研究(n=4),地域住民(n=4),職場(n=3),教育機関(n=6)において実施された計17編の文献(英語11編)が本レビューに含まれた。対象者の年齢(10~91歳)およびサンプルサイズ(100人未満~3万人以上)には多様性がみられた。観測された平均申告誤差の程度は研究によって異なったものの,大半の研究で身長は過大申告,体重は過小申告,BMIは過小評価された。BMIカテゴリ別の平均申告誤差を報告した3つの研究では,身長の申告誤差の方向性はすべての体格区分で変わらないものの,体重およびBMIはやせの区分のみで過大申告(評価)された。成人を対象とした4つの研究は,自己申告身長・体重に基づいたBMIを用いると,肥満の14.2~37.6%,やせの11.1~32.3%が普通体重(18.5≦BMI<25 kg/m2)に誤分類され,普通体重の0.8~5.4%および1.2~4.1%が,それぞれやせおよび肥満に誤分類されることを示した。

    結論 自己申告による身長と体重に基づくBMIを用いると,日本人では集団における肥満とやせ両方の有病率を過小評価する可能性がある。自己申告による身体計測値を疫学調査に用いる際は,こうしたバイアスの存在を考慮する必要がある。

資料
  • 三好 知美, 渡邉 正樹
    2023 年 70 巻 12 号 p. 828-835
    発行日: 2023/12/15
    公開日: 2023/12/21
    [早期公開] 公開日: 2023/09/05
    ジャーナル フリー

    目的 健康・医療情報の多くは,リスクやベネフィットなどの数量や確率といった数値情報を多く含んでいる。一般市民は,健康・医療情報で提示される数値情報を適切に理解し,情報に基づいた意思決定が求められる。したがって,学齢期からの健康に関する数的思考力(ニューメラシー)向上を目的とした教育が重要となる。ニューメラシーとは,「日常生活における様々な場面において,必要となる数学的な情報や考え方を検索し,活用し,解釈し,伝達する力」と定義される。本研究では,オーストラリアの初等・中等教育の保健体育科教育で行われているニューメラシーに関連する項目について内容を概観し,健康に関するニューメラシー向上のための健康教育の課題を明らかにすることを目的とした。

    方法 オーストラリアで実施されているニューメラシーに関する教育について,Australian Curriculumの情報を収集し,オーストラリアで実際に用いられている保健体育科の教科書の記載内容について検討した。

    結果 Australian Curriculumでは,①ニューメラシーは,汎用的能力として位置づけられ,②ニューメラシーは,教科横断的にカリキュラム全体で育成されるべき能力として示され,③保健体育科は,ニューメラシーと関連の高い学習領域の一つに取り上げられており,健康に関するニューメラシーの教育は主に保健体育科で取り扱われていた。保健体育科におけるNumeracy Learning Progressionのうち,保健に関連の高い内容は,「パーセンテージの操作」「数字のパターンと代数的思考」「単位の比較」「測定単位の比較」「測定値の計算」「データの解釈」であり,Year8(13歳)とYear10(15歳)で扱われていた。

    結論 健康に関する数値情報を正しく理解するために,日本の健康教育においてもニューメラシーを向上する学習が求められる。そのためAustralian Curriculumの保健体育科における健康に関するニューメラシー教育の内容が参考になると考えられた。

  • 斉藤 恵美子, 神崎 由紀, 表 志津子, 村田 加奈子
    2023 年 70 巻 12 号 p. 836-842
    発行日: 2023/12/15
    公開日: 2023/12/21
    [早期公開] 公開日: 2023/09/05
    ジャーナル フリー

    目的 本研究は,地域包括支援センター看護職の高齢者と家族への支援過程での倫理的ジレンマと倫理的行動の特徴について明らかにすることを目的とした。

    方法 東京都のホームページに公開されている地域包括支援センター449施設の看護職を対象として,各施設1人に無記名自記式質問紙郵送調査を実施した。調査項目は,年代,雇用資格,経験年数,倫理に関する組織等の有無,過去1年間に高齢者と家族の意思決定への支援で困難さ(以下,困難さ)を感じた事例数,高齢者と家族への支援過程での倫理的ジレンマとその状況,倫理的行動等とした。

    結果 回収数143件(回収率31.8%)のうち,勤務先での雇用資格が看護職であった135人(有効回答率30.1%)を分析対象とした。年代は50歳代58人(43.0%),40歳代37人(27.4%)の順に多く,雇用資格は看護師104人(77.0%),保健師31人(23.0%)であった。倫理に関する組織等があると回答した人は52人(38.5%)であった。過去1年間に困難さを感じた事例数の平均(標準偏差)は,8.3(12.5)件であり,そのうち倫理的な判断が困難と感じた事例数の平均(標準偏差)は,4.1(6.0)件であった。また,倫理的ジレンマの認識について,「よくある」,「時々ある」と回答した人は113人(83.7%)であった。その状況として,回答が多かった項目は,「利用者と家族の意向が異なり,何を尊重すべきか困った」95人(84.1%),「利用者の意向と,専門職としての自分の判断が異なり,何を尊重すべきか困った」64人(56.6%),「利用者と近隣住民との意向が異なり,何を尊重すべきか困った」56人(49.6%)であった。倫理的行動として回答が多かった項目は,「個人情報が特定されるデータの管理方法が組織内で決められており,それを遵守している」116人(85.9%),「対象者の状況に合わせてわかりやすい説明をしている」115人(85.2%),「対象者の状況から自己決定が困難な場合には,複数の職員で支援方針を決めている」113人(83.7%)であった。

    結論 看護職の80%以上が倫理的ジレンマを認識していた。それらの状況の特徴として,利用者と家族,利用者と専門職,利用者と近隣住民との意向が異なる場合が多かった。地域包括ケアに関する倫理的な課題については,さらに知見を蓄積する必要がある。

  • 原田 小夜, 後藤 広恵, 福井 美代子, 宇野 千賀子, 黒橋 真奈美
    2023 年 70 巻 12 号 p. 843-851
    発行日: 2023/12/15
    公開日: 2023/12/21
    [早期公開] 公開日: 2023/09/05
    ジャーナル フリー

    目的 COVID-19感染症蔓延下(以下,コロナ下)での人材育成担当者の新任者の現任教育における困難と工夫について明らかすることとした。

    方法 2021年度滋賀県研修受講者の人材育成担当者に対し,研修終了後2022年3月に自記式アンケート調査を実施した。アンケート内容は,保健師経験年数,人材育成担当者としての経験年数,担当業務内容およびコロナ下で「新任者の人材育成において困ったこと,工夫していることついて」の自由記述を求め,自由記述内容を人材育成において困ったことと,工夫していることの項目別に質的記述的に分析した。

    結果 回答者は20人で,年齢は29~52歳で平均41歳,保健師経験は3~27年で平均14.8年であった。新任者の人材育成において困ったことは,43コード,11サブカテゴリで,【新任者の業務遂行力の未熟さによる負担感】,【人材育成担当者のゆとりや自信のなさ】,【コロナ下で人材育成が難しい職場環境】の3カテゴリが生成された。工夫していることは,47コード,10サブカテゴリで,【限られた時間の中でも意識して新任者に伴走する支援】,【個別支援事例のリフレクション】,【コロナ下で新任者を育てる職場環境づくり】の3カテゴリが生成された。コロナ下では新任者は生活イメージの持ちにくさや体験の少なさによる業務遂行能力の未熟さがあり,新しく人材育成担当者になった者が多かった。人材育成担当者は業務が手一杯で新任者の業務の進捗把握が難しく,ゆとりや自信が持てず,指導に負担を感じていた。新任者は平常時でも難しい事例を担当する上,コロナ下で業務範囲が広くなっていた。人材育成担当者は,限られた時間の中で新任者と一緒に動き,気づいたことをその場で指導すること,初任者研修を活用した個別支援事例の振り返り,係を超えた事業体験の調整,担当事業の自己管理支援,定期的な面接や新任者が相談しやすい機会や場を作る職場環境づくりを行っていた。

    結論 コロナ下での新任者教育では,新任者の業務遂行能力の未熟さと業務の過多という職場で,人材育成担当者の負担が大きい。しかし,新任者とともに活動する場面を捉えて指導すること,個別事例のリフレクション,職場全体で新任者を育てる風土づくりが重要であった。人材育成担当者の負担を軽減するためには,人材育成担当者の研修,職場全体で新任者を育てる風土づくりが重要であることが示唆された。

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