日本公衆衛生雑誌
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建設会社従業員への睡眠支援の有効性に関する一考察:睡眠教育とウェアラブル端末を用いた比較研究
澤谷 知佳子大西 基喜
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2023 年 70 巻 7 号 p. 442-450

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抄録

目的 職場における睡眠教育と睡眠を可視化できるウェアラブル端末を組み合わせ,睡眠の状態,日中の眠気,睡眠習慣行動に与える影響,効果について検討することを目的とした。

方法 本研究は,建設会社3社の従業員を対象に,教育群(睡眠教育と睡眠メモによるモニタリング)および端末群(睡眠教育とウェアラブル端末による総睡眠時間等のモニタリング)に割り付けた比較研究である。2週間後に,ピッツバーグ睡眠質問票日本語版(PSQI-J)などの質問票により睡眠の質,生活習慣,プロセス評価について両群間の比較検討を行い,睡眠データについては各群内の経時的変化の検討を行った。一社ごとに男女別々に層別し,サイコロを用いて割り付けを行った。ベースライン(BL)と2週間後の変化量(改善の程度)について,群間比較では t 検定,マン・ホイットニーの U 検定,群内比較では反復測定分散分析を行った。

結果 参加同意者48人のうち,分析対象は42人(端末群 n=22,教育群 n=20)であった。年齢の中央値は端末群39(20–62)歳,教育群42(21–63)歳,男女比は端末群17:5,教育群15:5であった。PSQI-J総合得点は,端末群より教育群が有意に改善された(P=.017)。このことは,PSQI-JのBL値が改善の程度に,有意な影響を与えていたためであった(P<.001)。日本語版エプワース眠気尺度では,2群間に有意な変化はみられなかった。就床時刻は端末群が約12分前倒し,教育群が約11分後ろ倒しの有意な変化がみられた(P=.023)。総睡眠時間は両群ともに,BLに比べ1週目・2週目が有意に増加した(端末群 P=.015,教育群 P=.017)。睡眠習慣行動のうち「就寝2時間前の間,コンビニなどの明るいところへ外出しない」という項目のみ,端末群の達成度が有意に上昇した(P=.006)。

結論 睡眠教育単独の支援では主観的な睡眠の質の改善,ウェアラブル端末を加えた支援では主に睡眠の量的な変化(就床時刻の前倒し,睡眠時間の延長)が認められたが,それらの効果は部分的であった。しかしながら,本研究は,職場における睡眠支援計画立案の一つの参考資料として有用であるといえよう。

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