日本公衆衛生雑誌
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70 巻, 7 号
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原著
  • 廣田 誠子, 中山 千尋, 吉永 信治, 森山 信彰, 安村 誠司
    2023 年 70 巻 7 号 p. 415-424
    発行日: 2023/07/15
    公開日: 2023/07/25
    [早期公開] 公開日: 2023/03/10
    ジャーナル フリー

    目的 東日本大震災に伴う福島第一原子力発電所の事故を受け,福島県民の中には,放射線の次世代影響を心配する声が根強く残っているが,遺伝的影響を示す疫学調査はなく,この不安は解消されるべきである。他方,事故とは無関係に遺伝的影響を示す調査が存在すると誤解している人がいるという報告が存在する。そこで,本研究では,福島県内の住民を対象とした郵送調査により,放射線に関する知識の状態と放射線による遺伝的影響への不安との関係を調べた。

    方法 20~79歳の2,000人の福島県民を対象に,健康状態を問うアンケート2016年8月に郵送により行い,861件の回答を得た。回答者は,次世代への放射線の影響に対する懸念度を4段階で選択し,放射線の影響や防護に関する5つの知識について,“正しい”,“正しくない”,“わからない”から選択して回答した。居住地域,家族構成,年齢,性別,学歴,情報・メディアを調整した上で重回帰分析を行い,不安の程度と知識問題の回答状況との関係を検討した。

    結果 知識問題の正答率が高い人ほど,不安の程度が低いことがわかった。しかし,「わからない」の回答数は不安の度合いと無関係であった。また,放射線の体内残留を問うた質問や遺伝的影響に関する質問の正答率は,不安と負の相関があることが示された。後者の質問と細胞修復システムに関する質問に対する誤答は,不安と正の相関があった。また,線形閾値モデルに関連する別の質問での正答は不安と正の相関がみられたが,その相関は有意ではなかった。食品中の放射能基準値に関する設問は,いかなる関連性も示さなかった。

    結論 これらの結果から,放射線に関する正しい知識を持つ人の数と,次世代への放射線の影響に対する不安の度合いとの間に関連があることが確認された。しかし,この関係やその強さは,具体的な知識の内容によって異なることがわかった。本研究の限界として,因果関係を証明することはできなかった。今後,前向き介入研究などのさらなる研究が必要である。

  • 中本 五鈴, 杉浦 圭子, 相良 友哉, 高瀬 麻以, 馬 盼盼, 六藤 陽子, 東 憲太郎, 藤原 佳典, 村山 洋史
    2023 年 70 巻 7 号 p. 425-432
    発行日: 2023/07/15
    公開日: 2023/07/25
    [早期公開] 公開日: 2023/05/10
    ジャーナル フリー

    目的 本研究の目的は,高年齢介護助手が就労によって感じるメリットのパターンを明らかにすること,そして,バーンアウトの下位尺度の一つである情緒的消耗感とメリットのパターンの関連を検討することである。

    方法 2020年に全国老人保健施設協会が介護老人保健施設を対象に実施した調査データを用いた。調査では,高年齢介護助手を60歳以上の者と定義した。最終的に,高年齢介護助手を雇用する599施設の1,606人の高年齢介護助手から回答を得た。目的変数は,日本版バーンアウト尺度の情緒的消耗感の5項目を用いた。説明変数は,介護助手の仕事で得たメリット7項目(①社会貢献することができている,②社会とのつながりを得られている,③生きがいを得られている,④期待していた収入を得られている,⑤介護について学ぶことができている,⑥自分の健康の維持・増進に繋がっている,⑦時間を有効に使うことができている)とした。分析には,潜在クラス分析と重回帰分析を用いた。欠損値は多重代入法により補完した。

    結果 全項目に無回答であった5人を除外した1,601人を解析対象とした。潜在クラス分析の結果,4つのメリットのパターンが同定された:すべてのメリットを感じている「メリット充足型」,ほとんどメリットを感じていない 「メリット未充足型」,社会貢献と社会とのつながりをメリットとして強く感じている「メリット外向型」,健康維持・増進と時間活用をメリットとして強く感じている「メリット内向型」。重回帰分析の結果,「メリット充足型」と比較して,「メリット外向型」と「メリット未充足型」で情緒的消耗感得点が高く(b=2.465, P<.001,および b=1.931, P<.001),「メリット内向型」との違いはみられなかった(b=0.050, P=.851)。

    結論 多様なメリットを感じていることと,健康維持・増進や時間活用という自分自身に目を向けたメリットを感じていることが,高年齢介護助手の情緒的消耗感の低さと関連していた。今後は介入研究によって,多様なメリットまたは内向的なメリットを得ることが情緒的消耗感を抑制するかどうかの検証が必要である。

資料
  • 柳沢 志津子, 杉澤 秀博, 原田 謙, 杉原 陽子
    2023 年 70 巻 7 号 p. 433-441
    発行日: 2023/07/15
    公開日: 2023/07/25
    [早期公開] 公開日: 2023/04/10
    ジャーナル フリー

    目的 本研究は,都市部に居住する高齢者において,社会経済的地位と口腔健康との関連のメカニズムについて,心理および社会的要因の媒介効果に着目して検証し,口腔健康の階層間格差への対応に資する知見を得ることを目的とした。

    方法 東京都に位置する自治体で住民の社会経済階層が高い区と低い区を選択し,それぞれの自治体に居住する65歳以上の住民1,000人ずつの計2,000人を住民基本台帳から二段無作為抽出し,訪問面接調査を実施した。分析対象は,回答が得られた739人とした。分析項目は,口腔健康に主観的口腔健康感,残存歯数,咀嚼能力の3項目の合計点数を用いた。社会経済的地位は,教育年数と年収とした。媒介要因の候補は,社会生態学モデルを用いて,自尊感情,うつ症状,社会的支援とした。分析は多重媒介分析を行った。

    結果 心理社会的要因のうち,個別の要因については有意な媒介効果を確認できなかったものの,心理社会的要因全体では年収と口腔健康の媒介要因として有意な効果がみられた。心理社会的要因全体の媒介効果は,教育年数と口腔健康との間では有意ではなかった。

    結論 低所得者の口腔健康が悪い理由の一部に心理社会的要因が関与しており,ライフステージごとに実施される予防活動と心理社会的リスク要因全体を軽減する取り組みを組み合わせることで,社会経済的地位による口腔健康の格差を解消できる可能性が示唆された。

  • 澤谷 知佳子, 大西 基喜
    2023 年 70 巻 7 号 p. 442-450
    発行日: 2023/07/15
    公開日: 2023/07/25
    [早期公開] 公開日: 2023/04/10
    ジャーナル フリー

    目的 職場における睡眠教育と睡眠を可視化できるウェアラブル端末を組み合わせ,睡眠の状態,日中の眠気,睡眠習慣行動に与える影響,効果について検討することを目的とした。

    方法 本研究は,建設会社3社の従業員を対象に,教育群(睡眠教育と睡眠メモによるモニタリング)および端末群(睡眠教育とウェアラブル端末による総睡眠時間等のモニタリング)に割り付けた比較研究である。2週間後に,ピッツバーグ睡眠質問票日本語版(PSQI-J)などの質問票により睡眠の質,生活習慣,プロセス評価について両群間の比較検討を行い,睡眠データについては各群内の経時的変化の検討を行った。一社ごとに男女別々に層別し,サイコロを用いて割り付けを行った。ベースライン(BL)と2週間後の変化量(改善の程度)について,群間比較では t 検定,マン・ホイットニーの U 検定,群内比較では反復測定分散分析を行った。

    結果 参加同意者48人のうち,分析対象は42人(端末群 n=22,教育群 n=20)であった。年齢の中央値は端末群39(20–62)歳,教育群42(21–63)歳,男女比は端末群17:5,教育群15:5であった。PSQI-J総合得点は,端末群より教育群が有意に改善された(P=.017)。このことは,PSQI-JのBL値が改善の程度に,有意な影響を与えていたためであった(P<.001)。日本語版エプワース眠気尺度では,2群間に有意な変化はみられなかった。就床時刻は端末群が約12分前倒し,教育群が約11分後ろ倒しの有意な変化がみられた(P=.023)。総睡眠時間は両群ともに,BLに比べ1週目・2週目が有意に増加した(端末群 P=.015,教育群 P=.017)。睡眠習慣行動のうち「就寝2時間前の間,コンビニなどの明るいところへ外出しない」という項目のみ,端末群の達成度が有意に上昇した(P=.006)。

    結論 睡眠教育単独の支援では主観的な睡眠の質の改善,ウェアラブル端末を加えた支援では主に睡眠の量的な変化(就床時刻の前倒し,睡眠時間の延長)が認められたが,それらの効果は部分的であった。しかしながら,本研究は,職場における睡眠支援計画立案の一つの参考資料として有用であるといえよう。

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