2024 年 71 巻 12 号 p. 735-744
目的 本研究では,死亡率・罹患率ともに高い大腸がんに対して,対策型がん検診事業の実施主体である市町村のストラクチャーとプロセスを評価することを目的とした市町村単位の生態学的研究を行った。ストラクチャーとしては市町村の保健事業の対象となる人口構成の特徴とサービス提供の人的基盤となる保健師数に着目した。またプロセスは対策型がん検診受診率と新規がん発見指標によって評価した。
方法 研究データは,政府統計の総合窓口(e-Stat)より市町村の人口,面積,国民健康保険加入者数を得た。また市町村保健師数は保健師活動領域調査から,市町村の大腸がん検診に関する情報は地域保健・健康増進事業報告から,新規がん発見指標は国立がん研究センターに利用許諾を得た全国がん登録情報より得た。1万人以上の1,234市町村を分析対象として保健所設置の有無,人口5万人以上かどうかで3群に分類し,内部構造を比較して検討した。
結果 市町村保健師数(人口10万人あたり)は,5万人未満群(42.9)>5万人以上群(24.3)>保健所設置群(16.4)であった。集団検診と個別検診の実施割合は5万人未満群では96.2%,47.7%,保健所設置群69.1%,91.5%と対照的であった。対策型検診受診率の各群の平均は10.6~13.7%,対策型検診による精検受診率は68.4~75.3%で,いずれも5万人未満が高く,保健所設置群で低かった。ただし早期がん発見割合はいずれも42%台で有意差は認められなかった。
対策型検診受診率と大腸がん発見指標を従属変数とした重回帰分析の結果,集団検診が中心の5万人未満群では,対策型検診受診率に対して市町村保健師数が有意に関連し,また検診受診率は検診での発見割合と正の関連が認められた。これに対して保健所設置群では対策型検診受診率と市町村保健師数とは関連がなかったが,対策型がん検診による精検受診率の高さは早期がん発見割合と有意な正の関連が認められた。
結論 保健所非設置自治体では市町村保健師数は受診率と正の関連を示し,集団検診を軸とした検診受診率の向上ががん発見指標と関連していることを明らかにした。また個別検診が中心である保健所設置群では対策型検診による精密検査の受診率ががん発見指標と関連していることを明らかにした。