2026 年 73 巻 5 号 p. 460-470
目的 本活動の目的は,まちづくりに健康影響予測評価(Health Impact Assessment, HIA)を導入し,健康に配慮したまちづくりの実現を目指すとともに,日本におけるHIAの普及を目指すことである。千葉市稲毛区の「東京大学西千葉キャンパス跡地再開発計画」を対象にHIAを実施し,開発計画が住民の健康やウェルビーイングに与える影響を事前に評価した。
方法 HIAには詳細HIA,迅速HIA,机上HIAの3種類がある。今回は短期間での評価が求められたため,迅速HIAを採用した。HIAの主要な5段階(スクリーニング,仕様決定,事前評価,報告,モニタリング)のうち,モニタリングを除く4段階を実施した。日本公衆衛生学会の「健康影響予測評価ガイダンス」を基盤として,海外のHIAツールを参考にしながら,日本のまちづくりに適用可能な評価表を新たに作成した。この評価表を用いて,行政関係者,開発事業者,学術関係者が参加する形で計3回のワークショップを開催し,開発計画の健康影響を多角的・定性的に予測・評価した。
活動内容 ワークショップでは,作成した評価表を用いて各評価指標の判定,改善の余地のある項目への対策について議論した。著者らの研究グループが主体となり評価と改善策の提言をまとめ,開発事業者および千葉市の関係部門に報告書を提出した。提言は以下の通りである。竣工前には,(1)地域住民を含むステークホルダーと協力した緑地マップの作成,(2)医療機関への情報提供,(3)交通・モビリティ対策の推進などが求められる。竣工後には,(1)エリアマネジメント団体の設立,(2)新旧住民の交流を促進するためのイベント開催,(3)地域商店との連携強化などが推奨される。
結論 本HIAを通じて,まちづくりが住民の健康に与える影響を体系的に評価し,具体的な改善策を提案した。特に,多様なステークホルダーを巻き込んでワークショップ形式で評価を行うことによって,より実効性のある評価を行うことができた。一方で,住民参加の不足や時間的制約,また開発計画進行中にHIAを実施したことにより,物理的な計画への反映が限定的であった点は今後の課題である。本研究で開発した「まちづくりHIAチェックリスト日本版」が,日本の都市開発プロジェクトに広く活用され,日本でのHIAの普及と健康的な都市環境の拡大に寄与することが期待される。