2026 年 73 巻 8 号 p. 681-684
目的 日本語の「健康」と「保健」は,公衆衛生実務において英語healthの訳語として用いられることで,意味の境界が曖昧となっている。専門家の間では文脈により解釈されているが,政策評価やAI解析の場では論理的な齟齬の原因となりうる。本稿では,両語の意味を整理し,デジタル時代に対応した公衆衛生の論理的基盤の必要性を示す。
方法 英語healthの歴史的変遷と日本語訳の成立過程を整理し,さらに厚生労働省のロジックモデル(インプット,プロセス,アウトカム)に基づいて,各語の位置づけを構造的に検討した。
結果および考察 「保健」を活動・制度・手段(プロセス),「健康」を最終的な状態・目的(アウトカム)として区別することで,保健政策の評価枠組みを明確に整理できる。日本語の「健康~」という表現は,健康に関連する幅広い概念を包含するため,解釈に揺らぎが生じやすい。そのため,AI解析やビッグデータ処理においては,各用語がアウトカムかプロセスかを人間が明確に判断し,整理しておくことが重要となる。本稿の議論は,専門分野における説明責任の基盤としても重要である。
結論 本稿では,healthの語義の変遷と日本語訳の成立過程を整理し,現代の公衆衛生実務における用語の使われ方を概観した。その上で,「健康」を状態概念,「保健」を行為・制度概念として意識的に区別することの重要性を示した。