論文ID: 24-028
目的 身体活動の不足は世界的な課題となっているが,身体活動の長期的推移を定量的に示すデータは少ない。本研究の目的は,身体活動量のうち最も大きな割合を占める職業上の身体活動について,その活動強度の日本における長期的な推移を推定することである。
方法 日本の職業分類別の就業者数を労働力調査より取得し,1953年から2022年までの推移を確認した。次に,米国の標準職業分類の身体活動強度を示したTudor-Locke et al. (2011)のデータと方法を参考に,日本標準職業分類の計329の職業それぞれに活動強度(Metabolic equivalents: METs)を割り当て,10~11の職業分類の活動強度を代表する値を算出した。その後,各職業分類について,活動強度をもとに座業中心(sedentary: ≦1.5 METs),低強度(light: 1.6 to <3.0 METs),中強度(moderate: ≧3 METs)に再分類し,その就業者割合の推移を算出した。また,各職業分類の年間の就業者人口で重み付けをした活動強度の重み付け平均値を算出し,各年の平均職業METsとした。この方法により,労働力調査の各年の就業者割合をもとに,1953年から2022年までの平均職業METsを算出し,その推移を示した。
結果 1953年から2022年にかけて,活動強度別の就業者割合では中強度の職業が著しく減少し,座業中心と低強度の職業が増加傾向であった。また,職業上の身体活動強度の平均値(平均職業METs)は70年間を通じて低下し続けており,職業分類方法に大きな変更のない1962〜2010年の48年間では2.60 METsから2.35 METsと0.25 METs,9.6%の低下が見られた。
結論 過去70年間を通じて,日本では労働者の職業がより低い活動強度の職業へと置き換わり,結果として全職業の平均活動強度が低下し続けており,少なくとも約1割低下したと推定された。本研究では,各職業個別の活動強度が調査期間を通じて一定という仮定の下で推定を行っているため,実際は機械化等により職業上の身体活動強度はさらに大きく低下してきた可能性がある。今後の施策では,昇降デスクの活用など仕事中の座業時間の短縮や,仕事以外の場面での身体活動促進などを含めた多面的な取り組みが求められる。