日本公衆衛生雑誌
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前・後期高齢者別の多剤服用と要支援・要介護認定の発生:JAGES2013–2019縦断研究
笠原 正幸 井手 一茂柳 奈津代近藤 克則
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論文ID: 24-127

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抄録

目的 高齢者の多剤服用は利益をもたらす一方で,フレイルや要支援・要介護認定(以下,要介護認定)の発生につながりやすく,公衆衛生上の課題である。しかし,先行研究では服用種類数と正の関連がある疾病数,重症度の高い疾病やフレイルを考慮し,年齢階層別に多剤服用と要介護認定発生の関連を検討した報告はない。本研究の目的は,疾病の状態やフレイルを調整した上で,前期・後期高齢者別に多剤服用している者は要介護認定を発生しやすいか縦断的に検証する。

方法 日本老年学的評価研究の2013年度の14市町の要介護認定を受けていない65歳以上を対象とした自記式郵送調査への回答者を約6年間追跡したデータを用いた縦断研究である。日常生活動作非自立者,服用種類数不明者,回答時点での要介護認定者を除外し,分析対象者は12,752人とした。目的変数は追跡期間中の要介護認定発生の有無とした。説明変数は2013年時点の多剤服用とし,「なし」を参照群とし,「1~2種類」,「3~4種類」,「5種類以上」でカテゴリー化した。調整変数は多剤服用と要介護認定の交絡となり得る12変数を使用した。統計解析は生存時間分析(Cox比例ハザードモデル)を用いて,HR(hazard ratio)と95%CI(confidence interval),P値(有意水準5%)を算出した。多剤服用と年齢階層の交互作用を確認後,前期・後期高齢者別に分析した。変数の欠測値は多重代入法で補完した。

結果 前期・後期高齢者別に追跡期間中の要介護認定の発生は10.3%,37.6%であった。多剤服用と年齢階層の交互作用項は有意(P<0.05)であった。前期・後期高齢者別の多剤服用している者で追跡期間中の要介護認定発生(HR[95%CI,P値])は,服用なしに比べて前期高齢者の3~4種類(1.31[1.01–1.69,0.042]),5種類以上(1.89[1.44–2.49,<0.001]),後期高齢者の5種類以上(1.43[1.19–1.72,<0.001])であった。

結論 前期,後期高齢者ともに多剤服用している者は,要介護認定を受けやすく,疾病やフレイルが少ない地域在住の前期高齢者においても多剤服用の注意が必要な可能性がある。高齢者の医薬品適正使用の指針で謳われている地域を拠点とした医療機関・薬局は,前期高齢者から多剤服用対策を進めることが望まれる。

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